【中国関連】
【日本関連】
【アジア関連】
【米国・北米関連】
【欧州・その他地域関連】
【世界経済・政治・文化・社会展望】
2.トレンド
3.イノベーション・モチベーション
4.社会・文化・教育・スポーツ・その他
5.経済・政治・軍事
6.マーケティング
7.メッセージ
記事
人民元、4年9カ月ぶり安値=昨夏以来の下落幅―上海市場
時事通信 1月6日(水)
【上海時事】6日の上海外国為替市場の人民元相場は対ドルで大幅に続落した。
午後4時30分(日本時間同5時30分)時点では、1ドル=6.5575元と、2011年3月下旬以来約4年9カ月ぶりの安値となった。前日同時刻比では0.57%の元安・ドル高と、下落幅は中国人民銀行(中央銀行)が元の切り下げを行った昨年8月以来の大きさとなった。
人民銀がこの日朝、取引の目安となる基準値を元安ドル高方向に設定したことから、市場では金融当局が元安を容認したとの見方が広がった。前日に行われたとみられる当局による元買い・ドル売り介入もなかったもようだ。
中国・シンセン市でタクシー運転手による大型スト=配車アプリに抗議マカオ新聞 1月5日(火)
広東省シンセン市の繁華街のイメージ(資料写真)=2013年撮影
香港と隣接する中国広東省最大の都市、シンセン市で1月4日、タクシー運転手による大型ストが発生。影響は市内全域に及び、空港、鉄道駅、出入境施設、病院といった公共施設のタクシー乗り場のほか、流しでも空車が全く見つからない状況が続いたという。
昨今、中国の主要都市では米国系のUBER(ウーバー)や中国系の滴滴快的(ディディ・クァイディ)が展開するスマートフォン向けアプリを用いた配車サービスが相次ぎ登場している。現地メディアの報道によると、今回のストに参加した運転手らは配車アプリによって収入が激減したと訴えており、当局に対して規制の導入を求めているとのこと。
なお、Uberは中国の特別行政区にあたる香港とマカオでもサービスを開始したが、いずれも当局から「白タク」にあたるなどとして取り締まりの対象とされるなど、苦戦を強いられている。
2016年も中国経済が波乱要因に、上海株急落、導入したばかりのサーキットブレーカーが早くも発動
小平 和良2016年1月5日(火)NBO
写真:Imaginechina/アフロ
今年も中国経済に世界が振り回される1年になるのか――。2016年最初の取引となった1月4日の中国株式市場はそんな不安を抱かせる値動きとなった。
上海株式市場の上海総合指数は3296.26と前営業日に比べ6.86%下落。1月1日に導入したばかりのサーキットブレーカー制度が発動し、取引時間を1時間半ほど残したまま取引停止となって終わった。
サーキットブレーカー制度は上海証券取引所などが昨年12月初旬に2016年からの導入を発表したばかり。同制度は上海や深センに上場する有力企業300銘柄で構成するCSI300指数の騰落率が5%に達した際に取引を停止する。導入最初の取引日に、早速制度が発動した形だ。
中国市場急落の影響は日本にも及んだ。4日の日経平均株価の終値は前営業日比582円安の1万8450円と大幅安となり、およそ2カ月半ぶりの安値となった。
中国株急落は1月4日に発表された製造業関連の指標が低調だったことが一因だ。
中国メディアの財新と英マークイットが発表した12月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は48.2と、11月に比べ0.4ポイント悪化した。好況・不況の判断の分かれ目となる50を10カ月連続で下回っている。
昨年は6月中旬以降の上海株暴落で、世界の株式市場が動揺した。習近平指導部が目指す年7%前後という成長目標への疑念が膨らんだことが世界同時株安の原因となった。中国の株式市場はその後、落ち着きを取り戻していたが、2016年の取引初日にまたも世界にショックを与えた。
構造転換と安定成長の両立は可能か
低調な製造業関連指標を受けての株価急落は、中国の習近平指導部が進めようとしている経済の構造転換と安定成長の両立が簡単ではないことを改めて示している。
中国政府は、不動産などへの投資と低い人件費を生かした輸出を中心とした経済から内需主導型経済への転換を図っている。また、製造業の高度化を目指す「中国製造2025」や陸と海のシルクロードの周辺国家との結び付きを強める「一帯一路」などの政策によって、企業の国際競争力強化と過剰生産設備の解消を図る戦略も打ち出している。
内需主導型経済への転換は足元では進んでいるように見える。これまでの高度成長で中間層は拡大、個人消費は堅調に推移している。昨年12月25日には、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)も正式に発足した。人民元は国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨への採用が決まった。こうした動きだけ見ると、習近平指導部が目指す改革と成長への戦略が着々と進んでいるようにも見える。
しかし12月下旬に開かれた中央経済工作会議では生産能力の過剰が深刻との指摘がなされたと中国メディアは伝える。中国共産党と政府が翌年の経済運営方針について決める同会議が、なお構造改革が思うように進んでいないことを確認した形で、2016年の目標として、過剰生産能力の削減や不動産在庫の削減が掲げられたという。加えて景気の失速を防ぐため、積極的な財政政策を実行する方針も打ち出している。
財政出動を強化すれば構造転換が遅れるおそれも
過去をさかのぼれば、2008年のリーマンショックの直後に中国政府が打ち出した4兆元(約57兆円)に及ぶ財政出動が、不動産バブルや過剰設備の遠因になっている。中央経済工作会議で打ち出された積極的な財政出動は、急場しのぎのカンフル剤にはなり得るが、経済の構造転換を遅らせるリスクをはらむ。
中国は今年から新たな5カ年計画をスタートさせる。習近平政権として初めて策定し、「新常態」に入ってから初めての5カ年計画だ。経済の構造転換にこれまで以上に力を入れるのは間違いない。その一方で、国際的な影響力をさらに増そうという動きも加速しそうだ。昨年夏の中国ショックはあくまで序の口。今年は中国発のさらなる波乱に身構えておく必要があるかもしれない。
目次に戻る
<鈴木貴子衆院議員>唯一の20代「50年後に生きているかで責任感違う」毎日新聞 1月4日(月)
「若さは武器。50年後にも生きていて未来に責任が持てる」と話す鈴木貴子衆院議員=東京都千代田区の衆議院第1議員会館で2015年12月22日、中村美奈子撮影
若者たちと同世代の政治家はどんなことを考えているのか。現在20代の国会議員は、鈴木貴子衆議院議員(29)ただ一人。その目に映った政治の世界や年齢の壁、若い世代に訴えたいことを語ってもらった。【中村美奈子/デジタル報道センター】
--記者(以下略) 鈴木議員は現在、20代唯一の国会議員ですね。1月5日の誕生日で30歳ですが。
鈴木議員(以下略) 30歳のお祝い、しないと決めてるんです。悲しいのは「唯一の20代の国会議員です」と言えなくなること。(2012年の衆議院選挙で北海道7区の候補者として)26歳で初めてたすきを掛けた時は、若さが武器とは思わなかった。若い、すなわち経験がないと思って恐怖でした。
でも、国会議員のバッジ付けたら、若さって力だと痛感しましたね。1期目で60歳の人もいる。20代で2期目を迎えられているのは、鈴木貴子の強みと思っています。30年たっても59歳、40年たっても69歳。他の先生より未来に責任が持てる。50年後に生きているかどうかで責任感が違ってきます。
--20代で政治家をやる難しさとは。
現実的な政治の解決が求められるのですが、(利害の調整に)すぐ使える議員が必要だったり、政権与党じゃないとだめと言われたり。その点は若い世代には時に壁になります。
永田町では当選2回の同期といっても、私の親の世代が多い。60代の議員は安定を感じさせるイメージがあり、違いを感じます。私は身長156センチ、政治家の中でも小柄。年上の男性ばかりの中で埋もれないように、服は白やグレー、新党大地のイメージカラー、緑を着ます。
インターネットでの発信による自分の見せ方、見られ方への意識は、世代によってだいぶ違います。2期目の当選後、民主党の議員懇談会で「岡田(克也)代表、笑ってください」と言いました。政治はやっぱり心。喜怒哀楽をもっと見せてくれと頼みました。普段から自分を見てもらうツールのフェイスブックに笑っている写真は必要です。どう発信して、どう受け止められるかまで意識してほしいです。
--若い世代に訴えたいことは。
若い人は現実的です。年齢が近いからといって支えてくれる、そんな甘いもんじゃない。昔は道路がよくなったとか、政治によって生活がよくなるのが見えた。今は政治が何かを変える様子を見せられず、遠いものになってしまった。
でも、若い人たちは何かをしてもらうだけじゃなくて、何かをしないといけないと感じていると思います。一緒になって働きましょう、と言いたいです。たとえば実際に政治家に会って話をしたことがあるのか。学生さんには、候補者の演説の聞き比べができる立会演説会の復活を求める声を上げてほしい。自分の地域の政治家が何を考えているのか、それが見えないと政治が遠いままです。
前回の衆院選の小選挙区で私、225票差で負けたんです。地元の中学生の男の子が「選挙、どきどきしました。本物の政治を見せてもらいました」と言ってくれました。二十歳で初めて投票した社会人は「俺たちがあと10人ずつ声かけてたら、結果変わったじゃん」と言うので、私は「そうなんだよ」って。一生懸命な姿を見せて、何か変わるかもと希望みたいなものを示して、一人一人をワクワクさせるのが政治なんだと思います。
すずき・たかこ 衆議院議員(民主党、比例代表北海道ブロック)。当選2回。新党大地の鈴木宗男代表の長女で、代表代理を務める。2013年、新党大地の石川知裕元衆院議員の辞職に伴い繰り上げ当選。14年の衆院選は北海道7区で自民党公認候補に225票差で敗れ、比例で復活当選した。
◇立会演説会の廃止
各候補者が一堂に会し、政見を訴える選挙運動。1950年公職選挙法により義務づけられたが、対立陣営による妨害行為や聴衆の動員などの形骸化が進み、83年の同法改正により廃止された。
爆買いの次に来るのは地方観光?地元密着のキーパーソンがカギ西 雄大2016年1月5日(火)NBO
ムスリムが多く訪れる栃木県佐野市にあるラーメン店「日光軒」。店主の五箇大也氏は近隣にもノウハウを提供し、佐野市周辺ではムスリムがさまざまなジャンルの料理を楽しめるようになった。(撮影:村田和聡)
訪日外国人観光客の勢いが止まらない。国土交通省によると、2015年12月19日時点の訪日外国人旅行者が推計で1900万人を超えたという。15年に出国した日本人は1月から11月末までで1487万人。45年ぶりに出国者よりも入国者が上回ることが確実になった。
こうした訪日観光客の消費を当て込んだ出店も増えている。2016年3月に東京・銀座で開業する大型商業施設「東急プラザ銀座」に大きな免税店が開いたり、家電量販店ラオックスが各地に出店したりしている。
旅行者のなかには何度も日本を訪れるリピーターが増えつつある。リピーターたちは都心だけでなく、新たな楽しみを求めて地方にも足を伸ばす。ブランド品の購入をはじめとした「モノ」だけでなく、自然や伝統文化を楽しむ「コト」の消費に興味を持ち始めているのだ。2015年に続き2016年もこの勢いは強まりそうだ。
佐野にムスリムグルメが広がる
日経ビジネス11月30日号の特集「おらが村のインバウンド」でも書いたが、熊本県の人吉温泉や広島県安芸太田町など、移動するのに決して便利な場所ではない地方に多くの外国人観光客が訪れている。
こうした地域には共通項があった。地域を巻き込んで外国人をもてなす環境を作るために奔走するキーパーソンの存在だ。試行錯誤を繰り返しながら、もてなしている。
栃木県佐野市でラーメン店「日光軒」を営む店主の五箇大也氏もそのひとり。日光軒は全国各地から外国人観光客が訪れる。それはイスラム教徒(ムスリム)対応のお店だからだ。
牛でダシを取った塩ラーメン、豚肉の代わりに大豆を原料とした発酵食品「テンペ」を使ったギョーザが人気を集めている。ムスリムの人々に食べてもらうためには、イスラム教で許可されている食材や調理法などを指す「ハラル」への対応が必須となる。このため、調理する際の選択肢が限られるわけだが、記者も食べてみたところ特に違和感なく美味しく食べられた。
評判が口コミで広がり、地元だけでなく群馬県や兵庫県からも常連客が訪れるという。マレーシアから宇都宮大学に留学している女子大生は「宇都宮市内に住んでいるが、ムスリムが安心して食べられる餃子は1つもない。先日家族が遊びに来た時も日光軒を案内したし、友人たちに安心して勧められるお店」だという。
五箇氏がムスリム対応を始めたのは15年ほど前。当初は観光客を狙ったものではなく、ムスリムの知人から「私たちが食べられる食事を作って欲しい」との要望に応えるためだった。こうしたことをきっかけに、よりおいしく食べてもらえるように工夫を重ねてできたのが、現在のムスリム対応の餃子とラーメンなのだ。
五箇氏は近隣の店にもノウハウを提供している。ステーキ店、和食、フランス料理店が五箇氏の考えに賛同した。佐野市に隣接する足利市でフランス料理店と菓子店を経営する武井一仁社長もそのひとり。「この界隈では、ムスリムの方々が様々な料理が食べられるようになってきたので、十分に観光資源となってきた」と言う。ラーメンだけなく、様々な食を周辺で食べられることによってムスリムが集まりだしている。
企画担当者が足りない
その一方で、キーパーソンが見つからない地域も少なくない。キーパーソンがいないと、何を観光資源として売り込めば良いのか分からない。それは日本屈指の観光地、北海道でも例外ではない。
北海道と言えば、東京や京都と並んで人気観光地の代表格。2014年度も外国人の来道者数は前年度比33%増の154万人と順調に伸びている。だが道内がくまなくインバウンド急増の恩恵を受けているわけではない。
札幌市役所の担当者は「我々は北海道観光のハブ」だと話す。大半の旅行者は札幌市内を起点に出かけることが多いからだ。札幌市は最近登別や旭川など近隣の観光地と組んで独自の観光ルートを作り、海外に売り込んでいる。担当者は「どこの市町村でもウェルカム」と話すが、すべての自治体が積極的ではないという。
例えば札幌市と道内の各地と連携した観光企画を募集したところ、消極的な自治体も少なくなかったという。「『かに以外の特産品を提案して欲しい』とテーマを出したところ、大半がホタテ貝を使ったものだった。同じ食材では差異化できず頭を抱えた。企画力がある人材が各地にいてくれたらと思う」(札幌市の担当者)。
過疎地になるほど優秀な人材が不足しているだけでなく、新たな企画を考えようとする機運も生まれづらい。「インバウンドマーケティングに足りないこと」の著者でイーウィルジャパンの飯島邦夫社長は「外国人観光客の多くは、ありのままの日本を訪れたいと思っている。田舎も十分にチャンスはあるが、自分の地域の魅力を商品として作り上げる人材が足りない」と指摘する。目立った観光資源がなくても、綿あめや金魚すくいといった縁日体験を地元住民が総出で準備し、シンガポールからの団体客をもてなした自治体もあったという。飯島社長は「要は工夫次第で外国人観光客は呼べるし、SNS(交流サイト)に魅力が伝わる写真を載せ続けることも大事。お金をかけて宣伝する必要もない」という。
訪日観光客を迎えることは観光関連業界だけでなく、多くの産業を活気付かせられるチャンスにもつながる。雇用が生まれ産業が育ち町が繁栄する可能性を秘める。このサイクルを軌道に乗せるためにも、キーパーソンの発掘が不可欠となる。
自治体のなかには、訪日観光客を受け入れるために新たな施設を建設するところもある。そうしたハコモノに投じるのではなく、キーパーソンとなり得る人材を発掘する方に予算を投じるべきだ。都会で暮らす地元出身者や移住希望者など候補はたくさんいる。
訪日観光需要を地方創生の一環として取り組むのか。はたまた何もせず地方消滅都市として名前を連ねてしまうのか。2020年の東京五輪開催時には年間4000万人の訪日観光客が見込まれている。地方創生の柱となる人材育成は結果が出るまでに時間がかかる。もはや残された時間は少なく、今こそ一歩を踏み出すべきだ。
交通事故死、15年ぶり増=昨年4117人、高齢者54.6%―警察庁
時事通信 1月4日(月)
昨年の全国の交通事故による死者は4117人で、前年より4人(0.1%)増え、15年ぶりの増加となったことが4日、警察庁のまとめで分かった。
65歳以上の高齢者の死者(速報値)は前年比54人増の2247人に達し、全体に占める割合は高齢者の統計の残る1967年以降で最も高い54.6%だった。
政府が第9次交通安全基本計画(2011~15年度)で掲げた「15年までに死者3000人以下」の目標は未達となった。河野太郎国家公安委員長は閣議後の記者会見で「目標より1000人以上多く、抜本的に対策を見直さなければならない」と述べた。死者数の増加について、警察庁は「事故に遭った場合の致死率の高い高齢者人口の増加が背景にある」とみている。
全体の死者数は増加したものの、現行基準で統計を取り始めた48年以降で4番目に少ない。1日当たりの死者は11.3人。最多は12月25日の26人で、最少は2月5日の3人だった。
都道府県別では愛知の213人が最多。大阪の196人、千葉の180人、神奈川の178人、埼玉と北海道の177人が続いた。
目次に戻る
逮捕後に日本人になりすました中国人に、笑えないコントだとあきれるタイメディア Global News Asia 1月5日(火)
宝石展が開催れていたバンコク郊外ムアントンタニーのインパクト展示場(2015年3月RD 撮影)
2016年1月5日、中国人による騒動が月に何度も報道される事が多かった2015年。9月に発覚した窃盗事件がタイでもあきれられている。宝石を窃盗し、飲み込んで出国しようとした中国女は日本人を装っていた事がわかった。さらに盗まれた宝石が偽物だったことも発覚。被害に遭った販売店も摘発されるという、まるで笑えないコントのような顛末の事件となった。
【その他の写真:ガイドに引き連れられて、パタヤの夜の街を散策する中国人観光客】
事件があったのは、バンコク郊外のムアントンタニーの国際展示場で、中国人女性がダイヤを品定めするために手に取ると、店主が目を放した隙に飲み込んだ。その後、ダイヤが無くなっている事に気がついた店主が警察に通報。空港から出国しようとしていた犯人を逮捕した。
犯人の中国人女性は、ダイヤを飲み込んでいたものの、レントゲン写真から腹部に陰影を確認。収容先の病院で摘出された。
中国人女性は、警察の取り調べの際に「申し訳ありませんでした」と日本語で謝罪。日本人を装うも不自然だったことで、身分証として提示されたパスポートから中国籍であることが判明した。
警察はレントゲンで女性が飲み込んだダイヤを確認したが、見つかったダイヤが偽物だった事が発覚。この盗まれた偽物ダイヤを販売していた店も摘発された。
タイのメディアは、この事件をあきれるとともに、まるでウケないコントみたいなストーリーだと報じるとともに、中国人による続発するお騒がせな事件にうんざりといったコメントが多く見られた。 Global News Asia
【ヤンゴンAFP=時事】昨年11月のミャンマー総選挙で勝利した最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首(70)は4日、ヤンゴンで演説し「和平実現が新政府の最優先課題だ」と述べた。
ミャンマーでは長年にわたり、国軍と少数民族武装勢力との間で内戦が続いている。
テイン・セイン大統領は昨年、内戦の終結に向けた停戦協定に署名した。しかし、多くの少数民族組織が署名を見送り、全土での停戦実現は持ち越されている。
スー・チー氏は演説で、民族問題と和平実現をNLDの中心政策にしたと表明。「国軍も少数民族も、全ての人が協力して取り組まなければならない」と呼び掛けた。
日本の快適夜行バス、ゴージャスなリクライニング座席がタイ人にも大好評Global News Asia 1月6日(水)
WILLER TRAVELビジネス・クラスバス、大きな荷物も楽々収納。(2016年1月5日池袋サンシャイン・バスターミナルで撮影)
2016年1月6日、日本を訪れるタイ人観光客に大好評なのがゴージャスなリクライニング3列独立シートのバス。タイの長距離バスには、まだ、この快適なシートは採用されておらず、従来の4列シートがほとんどだ。
訪日リピータータイ人の間で話題になっているのが、超デラックスなバスだ。一例としてWILLER TRAVELのビジネス・クラスシートのバス。飛行機のビジネスクラスはなかなかハードルが高いが、このバスならリーズナブルに利用できる。
池袋―大阪間を利用したタイ人観光客は「噂通りでした。新幹線にも驚きましたが、このバスは凄い。大きな洗面所付きのトイレがあります。座席は大きいし、シート生地の質感も良いし、揺れも少ないです。ぐっすり眠れました」と話す。
夜行バスを上手に利用して、ホテル代を節約。滞在日数を増やしたい外国人観光客の利用率もドンドン上がっている。Global News Asia
目次に戻る
2016年に忍び寄る「ドル高変曲点」、ドル円100円時代は来るか?倉都 康行2016年1月5日(火)NBO
倉都 康行RPテック代表1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、東京銀行入行。東京、香港、ロンドンで国際資本市場業務に携わった後、1997年よりチェースマンハッタンのマネージングディレクターを務める。日本金融学会会員。
OPECは既に原油の価格維持機能を失ってしまった(写真:ロイター/アフロ)
2016年を迎え、市場は新たなリスク要因の吟味を始めようとしている。一般論としては、昨年遂に利上げに踏み切った米国がどこまで金利を引き上げるのか、に注目が集まりそうだが、筆者自身はこの点をそれほど警戒していない。FRBが目論むような今年4回の利上げはまず無理筋だ、と思っているからだ。
既に何度か指摘したように、米国のコア・インフレ率や期待インフレ率の足取りは重く、雇用が改善中だからといって、何度も利上げする必要がある状況ではない。米国の金融市場も、せいぜい今年の利上げは2回程度と踏んでいる。筆者も同様に、来る3月に2回目の利上げを行った後、大統領選挙までにもう1回利上げ出来れば御の字だ、と考えている。
勿論、米国にインフレ基調が戻ってくる可能性はゼロではなく、それをリスク・シナリオとして捉えておく必要はあるだろう。そうなれば長期金利は急上昇し、株価は急落し、ドルは一段高となる。だが「インフレの死」を告げる昨今の世界経済構造において、その確率は相当に低いように思われる。むしろ2016年に注目すべき点は、中国の人民元と原油価格のリスク・シナリオだろう。
厄介な存在になりそうな不透明材料
2015年の国際資本市場では、大きなセンチメント変化が三つあった。一つ目は、中国経済の成長モデルの限界が明らかになったことである。上海株の暴落や人民元の急落は、過去何年にもわたって中国に対して指摘されてきた警報が「オオカミ少年の警告」ではなかったことを証明した。今年も成長率鈍化の傾向は変わらず、市場リスクの筆頭に位置することは誰にも異論はないだろう。
二つ目は、原油価格の長期低迷である。昨年初の時点では、年末には70ドル近辺まで相場が戻るとの見方が大勢であったが、実際にはその半分の水準での越年となった。サウジが戦略を大胆に転換しない限り、この低水準が急速に切り上がる可能性は乏しいだろう。
そして三つ目がジャンク債などクレジット市場の心理悪化である。これも昨年前半までは、エネルギー・セクターに限定された売りであったが、それが徐々に他産業へと拡大し、ジャンク債全体の利回りを大幅に押し上げてしまった。そして昨年12月には、幾つかのクレジット・ファンドが清算を余儀なくされている。
市場には、このジャンク債の動揺に2007年の「パリバ・ショック」を思い浮かべる人もいる。当時、サブプライム・ローン関連の証券化商品に投資していたフランス大手銀行のBNPパリバの傘下にあったファンドが、投資家からの解約を凍結すると発表して市場に激震が走り、その後の金融危機の序曲となった事件である。
今回はジャンク債が対象であり、サブプライム・ローンとは異なるが、同じ「クレジット市場」の仲間での現象であり、類似性は確かに高い。金融危機の引き金を引くのは株価の急落ではなくクレジット市場の崩壊である。利上げ時期と重なったこともあり、嫌な雰囲気が醸成されていることは否めない。
但し、前回と違うのは金融システムにおけるレバレッジの水準が低いことである。仮にレバレッジの問題が深刻でなければ、悪影響の波及も限定的である。損失を被る投資家は間違いなく存在するが、ジャンク債市場はいわゆる「リプライシング」という一段の価格調整で収束するのではないかと思っている。
それに比べれば、人民元と原油という二つの不透明材料は、昨年以上に厄介な存在になるかもしれない。ブラジルやロシア、インドネシアなど新興国問題もまだ燻ったままである。それらの材料が、我々にとって気になるドル円や株価動向などに意外な影響を及ぼす可能性は小さくない。
中国経済に関してはほぼ世界中が「景気減速」を織り込んでおり、特に目新しい話題がある訳ではないが、資本流出や人民元の相場動向に関しては不透明感が強い。昨年8月に中国人民銀行が予想外の人民元切り下げを発表したことで世界の市場が動揺し、FRBは9月の利上げ断念に追い込まれたことは記憶に新しいが、今年もそんなサプライズが無いとは言えまい。
為替市場では昨年秋に習主席が「8月と同じような切り下げは二度とやらない」と公言して相場が安定したことで、相場は落ち着きを見せている。だが低迷する中国経済と割高な人民元相場とを並べてみれば、更なる切り下げ以外の答えは出てこない。
中国からの資本流出と人民元のじり安傾向は、依然として継続中だ。後者に関しては、オフショア人民元の下落につられるように、人民銀行が設定する基準値も既に8月の安値を通り越して約4年半ぶりの水準に低下している。中国政府の本音も一段の人民元安にあることは明らかだが、政府や人民銀行がそれを認めれば、収拾のつかない通貨急落を招きかねない。
市場混乱は是非とも避けねばならない。だが割高な通貨を放置する訳にもいかない。各国や市場が認める形で人民元安を進めるにはどうすればよいか、と考えて出てきたのが、ドルではなく通貨バスケットを参照する、という案である。
人民元の二面作戦
市場は通常、人民元を対ドル相場で見ている。昨年8月の人民元急落も、対ドルの実勢相場に基準値を近付けるという作業の中で起きたものだ。だが人民銀行は「ドルではなく通貨バスケットとの対比で通貨の適正価値を判断する」という手法に転換しようとしている。
人民元は対ドルでやや低下しているが、通貨バスケットとの参照においては多少ながら上昇していると言える。従って、適正水準に戻すためには人民元の一層の下落が必要だ、と正当化することが出来るのである。つまり人民銀行は、人民元に切り下げ余地があることを世界にアピールし、通貨切り下げの贖宥状を受けようとしているのだろう。
もっとも、中国が通貨バスケットに言及するのはこれが初めてではない。2005年7月に米ドルとの固定相場制から管理フロートに移行した際、ドルや円、ユーロ、ウォンなどに7通貨を加えた11通貨のバスケットに対して相場水準を設定する方法に切り替える、と発表した。だがその詳細は発表されないまま、今日まで事実上の対ドル管理相場が採用されている。恐らく対外的には通貨バスケットを強調しつつ、対内的には対ドルでの相場が参照され続けるものと推測される。
こうした二面作戦がうまくいくのか、保証はない。いずれにせよ人民銀行と投機筋との駆け引きが続くことになるだろうが、悲願の「SDR採用」を果たした中国が、以前のように派手な介入策を採ることも難しいだろう。従って、人民元が対ドルで7.0超えといった水準にまで急落するリスクは存在する。人民元急落懸念は市場のリスクオフを生み、株価急落や円急上昇といった副次的な作用をもたらす可能性は高い。
一方の原油市場に関しては、ゴールドマン・サックスなどが1バレル20ドル台までの下落を予想するなど、先安観が根強い。昨年末にWTI市場では期近物が34ドル台まで低下、ブレントは7年ぶりに36ドル台にまで下落した。ドバイ原油は11年ぶりとなる33ドル台を付けている。
ブルームバーグに拠れば、メキシコ原油は既に28ドル台で取引されており、イラクのアジア向けバスラ重油は25ドル台という超安値が観測されている、という。もはや世界中で原油生産は採算割れの状況だ。だがサウジやイラクの増産体制だけでなく、今年は制裁解除でイランによる輸出増が見込まれており、供給過剰感は強まるばかりである。
ファンド勢の原油先物市場における空売りポジションは、過去最高水準にまで積み上がっているが、先安観から新たなショート積み上げに向かう投機筋も居るようだ。確かに産油国が価格や需要水準を無視した生産を続ける限り、原油価格下落を止める力はない。
こうした原油市場への警戒感にさほどサプライズは無さそうに見えるが、リスク・シナリオがあるとすれば、何らかの材料で起きる投機筋のパニック的な買い戻しであろう。原油も株価や為替と同様にオーバーシュートした後、どこかで急反転する傾向がある。それが来年中に起きないとは言えない。
因みに原油市場のセンチメントをよりよく示すと言われる長期先物水準を眺めると、ブレント3年先物水準は既に2009年当時を下回っている。世界経済は現在も多々問題は抱えているが、底割れすら懸念された2009年とは比べ物にならない。それは、投機筋の弱気度がやや過剰になっている可能性を示唆しているようにも見える。買い戻しの契機となる一つの可能性があるとすれば、サウジアラビアの戦略転換だろう。
サウジアラビアとロシアに共通する「思い」
IMFに拠れば、サウジアラビアの財政収支が均衡する原油価格の水準は、今年86ドルと推定されている。昨年の財政赤字はGDP比20%に達しており、歳出削減が進めにくい経済構造を考えれば、今年も同程度の赤字が続くことは避けられまい。同国は昨年8年ぶりとなる国債を発行、今年は史上初の外債を発行する予定である。また財政穴埋めのための資産取り崩しも行っており、米国債だけでなく日本株を含む先進国優良株の処分を始めている。
同国の公的債務はGDP比7%程度に過ぎず、長期戦には耐えられるとの計算のようだが、いくら体力に余裕があるとはいえ、40ドル台の水準を長期間放置する訳にもいかない。財政均衡水準が100ドルを超えるリビア、アルジェリア、バーレーンなどからは悲鳴が上がっている。
原油シェア死守を御旗に掲げるサウジも、生産調整に関して関心が無い訳ではない。先月のOPEC総会では生産目標で合意出来なかったが、それはOPEC外の生産増ペースが落ちないために、自分たちだけで調整しても意味がないからだ。OPECは既に価格維持機能を失っているのである。
そこでサウジは水面下でロシアにOPEC参加を促している、とも言われている。中東情勢に関しては、シリアのアサド政権を支持するロシアと、同政権崩壊を願うサウジとは対立中であるが、原油に関しては市場支配力を回復させて価格を採算コストまで早期に戻したい、という共通の思いがある。
ロシアのオレシュキン財務副大臣は「我々は2022年まで1バレル40ドルでの財政計画策定に着手した」と述べて、低価格の長期化にロシアが十分耐え得ることをアピールしている。ルーブル安も救いである。それは減産合意出来ないOPECに対する挑戦状のようにも見えるが、ロシアの財政状況がかなり疲弊していることも明らかである。
ロシアの財政赤字はGDP比4%程度に拡大する見通しで、サウジに比べれば低水準だが、依然として欧米市場での資金調達は困難であり、石油基金も来年末には底を突くとの見方もある。サウジとロシアの消耗戦に、勝者は居ないのかもしれない。となれば両者がどこかで妥協する可能性もゼロではあるまい。
サウジの早期戦略転換は無い、と確信する市場にパニック的な買い戻しが起きれば、原油価格の急反転は世界的金融緩和の終焉を想起させ、市場にはリスクオフの嵐が吹き荒れる。確率は低そうだが、それが原油に関するリスク・シナリオと見て良いだろう。
ドル円急落のリスクも
そんな外部環境を想定しながら日本市場を見渡せば、メイン・シナリオである「日銀による追加緩和政策への期待、円安地合いの継続、日経平均の上昇基調維持」といったムードも、時々水を差されることになるだろう。
日銀は、いずれ衆参ダブル選挙を目指す官邸からの圧力で追加緩和に踏み切る可能性が高そうだが、それが円安・株高基調を維持する力が残っているかどうか、筆者はやや疑問視している。昨年12月の補完措置は、日銀のコミュニケーション力を大きく低下させてしまったようにも見える。
まず米国では、FRBは3月に利上げした後、暫く様子見を強いられる可能性が高い。インフレ期待が上昇しない中、景気のもたつき感が出始める可能性があるからだ。そして大統領選を控えて、何か問題が起きれば政治家は必ず利上げを悪者にして、利上げにブレーキを掛けようとするだろう。
それは、ドルの上昇力を殺ぐことになる。過去のパターンから見てもドルは利上げ開始後3か月程度でピークを打つケースが多い。ドル円も125円程度を天井に、春あたりから徐々に下値を切り下げていくものと思われる。115円近辺までの下落はもはや想定内だろう。
問題は、それ以上のドル円の下落即ち円高が有り得るかどうかであり、上述した人民元と原油のリスク・シナリオがそこに関わってくる。仮に人民元急落といった場面が来れば、リスクオフの嵐にドル円が100円近くまで急落するかもしれない。中国不安は日本売り材料だから円安だとの見方もあろうが、「リスクオフの円買い」という公式はまだ健在だ。人民元安が最終的に中国経済回復への材料となれば、日本買いにも説明が付く。
また原油が急反発すれば、日銀の追加緩和シナリオは霞んでしまう。それは、2012年末以来の円安・株高モードの終焉を意味する。日本経済がそれで腰折れするとは思えないが、永続的な緩和期待で浮ついている市場には冷水が浴びせられるだろう。
誤解しないで頂きたいが、人民元急落も原油急反発も飽くまで「リスク・シナリオ」でしかない。今年こそはメイン・シナリオ通りに平穏に過ごせるかもしれない。だが、コンセンサスが外れ気味の昨今の市場では、こうした材料をひとまず頭の隅に置いておいても損はあるまい。
VW、電気自動車前面に=イメージ一新狙う―米家電見本市
時事通信 1月6日(水)
【ラスベガス時事】ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は5日、米ラスベガスで6日開幕する世界最大の家電・IT見本市「CES」の事前イベントで、ミニバン型の電気自動車(EV)「BUDD―e(バディー)」の試作車を発表した。
EVを前面に押し出し、ディーゼル車の排ガス不正問題で傷ついたブランドイメージの一新を図る。
バディーは、特徴あるデザインで過去に人気を博した「タイプ2」の21世紀版という位置付け。電気のみで最大約600キロの走行が可能で、車内から住宅内の家電や設備を遠隔操作できる通信機能も搭載する。2020年までの実用化を目指す。
画面に触れずにジェスチャーだけで操作できる車載情報システムを採用した小型車「ゴルフ」のEVも併せて披露した。
目次に戻る
ドイツでの難民申請者、2015年は109万人ロイター 1月6日(水)
[ベルリン 6日 ロイター] - ドイツのメルケル政権は6日、ロイターに対し、同国における2015年の難民申請者が約109万人に上ったと明らかにした。
12月の申請件数は12万7320人だったという。
サウジ、シーア派指導者ら47人処刑 宗派間の対立悪化も
ロイター 1月3日(日)
1月2日、サウジアラビアは、国内で爆弾などによる攻撃に関与した47人の死刑を執行した。写真は処刑されたイスラム教シーア派の有力指導者ニムル師の肖像画を手に抗議する人。バーレーンで撮影(2016年 ロイター/Hamad I Mohammed)
[リヤド 2日 ロイター] - サウジアラビアは2日、国内で爆弾などによる攻撃に関与した47人の死刑を執行した。大半は国際武装組織「アルカイダ」の攻撃に関与したスンニ派の過激派だが、サウジ王室に批判的だったイスラム教シーア派の有力指導者ニムル師も含まれており、宗派間の対立が国内外に広がる可能性がある。
目撃者によると、サウジ東部州カティフではニムル師の処刑を受けて少数派のシーア派住民ら数百人が集まり、デモ行進を行った。
今回の集団処刑は1980年以来数十年ぶりの規模。
処刑の対象となったのは、2003─06年に国内でのアルカイダによる攻撃に関与したとされるスンニ派が中心。このほか、11─13年に反政府抗議運動を行ったとされるニムル師らシーア派も含まれる。
シーア派が多数を占めるイランの最高指導者ハメネイ師のウェブサイトは、サウジの死刑執行者の隣に過激派組織「イスラム国」の黒い覆面の男、通称「ジハーディ・ジョン」を並べた写真を掲載し、「違いはあるのか」とするキャプションを添えた。
また、同国のイスラム革命防衛隊は「テロリストを支持する反イスラム政権は、激しい報復によって転覆するだろう」とし、今回のサウジの動きを非難した。
欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表はニムル師の処刑について、中東地域で宗派間の対立を一段と悪化させ、「危険な結果」を招く恐れがあるとの懸念を示した。
テヘランでサウジ大使館襲撃、イラン、宗教指導者の処刑に反発
2016年01月04日(Mon) WEDGE
イスラム教スンニ派の守護者を自認するサウジアラビアが少数派シーア派の有力な宗教指導者を処刑したことに対して、シーア派の盟主イランが猛反発、怒った群衆が3日、テヘランのサウジアラビア大使館に乱入し、放火するなど暴れ回った。両国関係はシリア内戦やイエメン紛争をめぐって対立してきたが、今回の事件により一気に先鋭化、ペルシャ湾にも緊張が高まっている。
“レッドライン”
サウジアラビア大使館前で抗議するテヘラン市民(Getty mages)
斬首刑にされたのは、シーア派の著名な宗教指導者のニムル・バクル・ニムル師(56)。サウジ各地で2日、処刑された47人のうちの1人だった。同師は2011年に始まった「アラブの春」で、サウジやペルシャ湾岸諸国のシーア派による反体制運動の象徴的な存在となったが、12年7月に「宗派対立を扇動した」としてサウジ当局に逮捕され、死刑判決を受けていた。
今回の処刑に対して、当のサウジや、イラン、バーレーン、イラクなどで抗議行動が発生、イランではテヘランでサウジ大使館が襲撃されたほか、北東部マシャドにあるサウジ領事館にも暴徒化した群衆が乱入し、国旗を引きずり下ろすなどして警備の警官隊と衝突した。
テヘランの大使館では2日から3日未明にかけて処刑に抗議する群衆が押し寄せ、一部が火炎瓶を投げるなど暴徒化、大使館の一角から黒煙が上がった。群衆らは「サウド王家に死を」と叫び、大使館の窓ガラスなどを粉々にした。この襲撃で複数の警官らが負傷し、約40人が拘束されたという。
イランの最高指導者のハメネイ師は「サウジの指導者は政治的な過ちを犯した。彼らは神の報復を必ず受けるだろう」と非難、革命防衛隊も「サウジは重い代償を払うことになるだろう」と強く批判する声明を発表した。
一方のサウジ政府は大使館襲撃を受け、リヤド駐在のイラン大使を外務省に呼び、イランには大使館を保護する責任があると強く警告、イラン側のサウジ批判を「内政干渉」と反発した。
サウジは聖地メッカを守護するスンニ派の太守。しかしペルシャ湾に近い東部の油田地帯などに反体制派のシーア派住民を抱え、これまでにも再三弾圧を加えてきた。特に79年に対岸のイランでシーア派革命が起こってからは、革命が輸出されかねないと警戒、イランとは敵対関係が続いてきた。
またシリア内戦では、革命防衛隊を派遣してアサド政権を支えるイランと反体制派を支援するサウジが「代理戦争」を展開、イエメン紛争でも同国の実権を掌握したフーシ派をイランが後押しし、これにサウジが直接的に軍事介入して同派の攻撃に踏み切るなど対立が激化していた。
中東のアナリストの1人は「今回の処刑はシーア派の蜂起は容認しないというサウジの決意を示したメッセージ」と指摘。ベイルート筋は「ニムル師はシーア派教徒の間では知らない人はいない。サウジは同師を処刑することで“レッドライン”(超えてはならない一線)を超えてしまった」と述べ、今後サウジ対イラン、スンニ派対シーア派の対立が激化するとの見通しを示した。
シリア和平協議困難に
今回の事件で懸念されるのは、昨年12月に国連安保理で決議されたシリア和平協議の行方だ。決議では1月をめどに国連の仲介で、アサド政権と反体制派の直接協議を開始することになっている。しかしアサド政権を支えるイランと、反体制派を支援するサウジの関係が決定的に悪化したことで協議開始は困難になったとの見方が強い。
サウジは12月、反体制派の主要組織を集めて会議を開催、半年以内の発足とされたシリアの移行政権にアサド大統領の参加を認めないことで一致した。これに対してアサド大統領は交渉の条件として反体制派の武装解除を要求し、協議のスタートが危ぶまれていた。
シーア派政権の存続を最重要視するイランもサウジの反体制派固めとアサド氏排除の決定に強く反発していたが、サウジとの関係がさらに悪化したことから和平協議で妥協する余地はなくなったと見ていい。それどころか、中東全域でスンニ派とシーア派の宗派対立が拡大する懸念すらある。イラクのアバディ首相は「シーア派に対する抑圧は続かない」とサウジへの反発を強めている。
こうした事態にオバマ政権は水面下でイランとサウジの緊張がこれ以上高まらないよう鎮静化を図っているが、当面は打つ手がない状態。過激派組織「イスラム国」との戦いに結束を図らなければならない時に起きた両国の対立激化に頭を抱えている。
EU残留か離脱か、歴史的岐路=賛否伯仲、難民問題も影響―今夏にも国民投票・英国 時事通信 1月3日(日)
【ロンドン時事】英国の欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票が早ければ今夏にも実施される。
域内2位の経済規模を持つ英国が離脱すれば、英国側のみならずEU側にも重大な衝撃となる。国内の賛否は伯仲しており、EU改革の行方や中東からの難民問題など国際情勢の展開によって、どちらに転んでもおかしくない状況。英国は歴史的な岐路に立たされる。
英国は1973年にEUの前身の欧州共同体(EC)に加盟以来、共通市場など実利は求めるが「欧州統合の理想」には熱心ではなかった。
EU離脱派団体「Leave.eu」のアンディ・ウィグモア広報部長は「最悪なのは、わが国の民主的議会で制定された法律が、選挙を経ない欧州委員会の決定に覆されること」と述べ、EUの非民主的側面を批判する。離脱派は、EUの経済政策のまずさや過剰な規制にも反発している。
これに加え、近年EUに加盟した東欧諸国から英国に大量に流入する移民が、雇用を奪ったり社会保障の重荷になったりするといった不満も国民の反EU感情を強めている。
一方、残留派団体「英国は欧州内で一層強くなる」のウィル・ストロー事務局長は、英国がEU加盟により得る利益は、雇用、投資などの面で世帯当たり年間3000ポンド(約53万円)に上ると主張。「EUに背を向ければこのすべてを失う」と実利を強調した。残留派はまた、離脱は英国の国際的地位を低下させると懸念する。
<ロシア>貧富の格差拡大…原油安や経済制裁ズシリ
毎日新聞 1月5日(火)
スーパーの入り口前で物乞いする車椅子の男性。ロシアでは貧富の格差が深刻化している=モスクワ中心部で2015年12月29日午後7時、真野森作撮影
【モスクワ真野森作】原油安や米欧の経済制裁に苦しむロシアで、貧富の格差が深刻化している。昨年1~9月期における貧困者数は前年同期より230万人増加した。一方、クレディ・スイスの調査によると、ロシアでは現在、上位1割の富裕層が国内の家計資産の約9割を保有し、米国や中国以上の富の偏在が生じている。
露連邦統計庁の発表によると、2015年1~9月期における貧困者数は2030万人で、国民の14.1%が貧困ラインとされる月9673ルーブル(約1万6000円)以下の収入で暮らす。
全ロシア世論調査センターが先月中旬に実施した全国世論調査では、「新しい衣類を買う余裕がない」と回答した世帯の割合は39%に上り、1年前の1.7倍となっていた。
昨年9月時点の別の世論調査では国民の7割が「過去15年で貧富の格差が拡大した」と答えた。
プーチン大統領は先月17日の年末記者会見で「ロシア経済の危機はピークを越えた」と豪語したが、首都モスクワでも街頭で物乞いする年金生活者らの姿が目立つ。年末会見では、政権上層部の子息ら「特権階級」の出現を危惧する質問もあった。
ウクライナ危機など外交面での対立を受け、ロシア政府が米欧やトルコなどの食料品を禁輸したことも影響し、15年の年間物価上昇率は暫定値で12.9%となり、13.3%を記録した08年以降で最高。特に貧困世帯の家計にとっては大きな痛手だ。
目次に戻る
“欧州の頭脳”ジャック・アタリが世界のリスクと新秩序を大予言!
ダイヤモンド・オンライン編集部 2016年1月4日 DOL
凋落する米国、難民問題やテロに揺れる欧州、台頭する中国、そして経済再生への試行錯誤を続ける日本――。混迷する世界はどこへ向かうのか。「ヨーロッパ最高の知性」と称される経済学者、ジャック・アタリ氏は、これまでも、ソ連崩壊、金融バブル、新たなテロの脅威、インターネットによる世界変化などを予測し、見事に的中させてきた。アタリ氏が考える足もとの世界のリスク、そして来るべき新たな世界秩序とはどんなものか。去る2015年12月、株式会社ワークスアプリケーションズが開催した日本最大級のビジネスフォーラム「COMPANY Forum 2015」に参加したアタリ氏の基調講演と単独インタビューの内容を基にお伝えする。(構成/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
2016年はどうなる?希望とリスクに満ちた世界情勢
ジャック・アタリ(Jacques Attali)経済学者、作家、思想家。1943年生まれ。アルジェリア出身。パリ政治学院卒業。経済学国家博士。仏ミッテラン大統領の側近として1981年~91年大統領補佐官、91年~93年初代欧州復興開発銀行総裁を歴任。主な著書に『カニバリスムの秩序──生とは何か/死とは何か』『ヨーロッパ──未来の選択』『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』『まぼろしのインターネット』『金融危機後の世界』など。その知見の深さから「欧州最高の知性」と称される
21世紀の世界は希望とリスクに満ちていると、私は考えます。これから数十年先にかけて、世界の姿はどうなっていくのでしょうか。
まず注目すべきは、人口という視点です。たとえば2050年には、世界の人口は大災害が起こらない限り、現在より25億人増加して95億人になる見通しです。先進国を中心に人の寿命は今より8~10歳伸びる一方、出生率は低下し、人類は高齢化していきます。人類の3分の2は都市部で生活するようになり、各都市の人口は2倍に膨れ上がる。現在でも世界の人口のうち2億人が、自分が生まれた国とは違う国に住んでいますが、気候変動の影響などで大きな人口移動が起き、10億人は自分が生まれた国と違う国に住んでいることでしょう。
次に国という視点です。2050年には人口が増えているところも減っているところもあります。米国は8000万人、フランスは900万人増える一方で、ドイツは1000万人、ロシアでは3000万人ほど人口が減少するでしょう。日本の人口は1億人を切ります。それに対して、アフリカの人口は10億人から25億人へ急増し、アフリカの国々が世界の「希望」となるでしょう。
こうした状態は、脅威とも言えます。人口の増加で消費されるエネルギーや農産物、食料などの生産を増やさなければならない一方、気候変動の影響などにより、資源はどんどん希少になっていくからです。世界経済は、成長を続けることができるでしょうか。
そんな中でも、希望はあります。世界人口の増加は、潜在成長率の高さの表れでもあります。新たなテクノロジーの進化によって、エネルギーの消費が節約され、医療も進歩していく。ITやデジタルエコノミー、ナノテク、エネルギー、ニューサイエンスの発達などを通じて、テクノロジーが人口増加の影響をコントロールすることができるようになります。すでにこうした将来有望なテクノロジーの下地は、20~30年前から培われており、世界中で低金利が続いていることから、テクノロジーへの投資インフラが発達を続けると見られ、今後も世界は人口に見合った成長が十分可能だと思います。
一方、足元の世界情勢に目を転じると、大きなリスクが見えています。先月フランスで起きたパリ同時多発テロ事件には、世界中の人々が危機感を持ったことでしょう。フランスばかりでなく、ベルギー、ナイジェリア、シリアなど、あちこちの国で暴動や紛争が起きています。
思えば、現在の世界の状況は、20世紀初頭に酷似していると言えないでしょうか。当時は、欧州にも日本にも富が溢れており、各国で電気、石油、潜水艦、ラジオなどの新しい産業が台頭していました。何より大きかったのが、民主主義や経済のグローバル化です。まさに「世界がつながっている」という雰囲気がありました。
しかし、米国で発生した恐慌が発端となり、その後の不況の中で、世界には保護主義やニヒリズムが蔓延しました。そうした中で、ヒトラー、ムッソリーニ、スターリンといった悪だくみをする独裁者が台頭し、第二次世界大戦へとつながって行ったのです。
市場の暴走に保護主義、テロ――。20世紀初頭と酷似する世界のリスク
翻って、21世紀初頭の現代でも、グローバルな市場経済や保護主義の台頭が起きています。現在の世界は技術発展によって、よいことも悪いことも連続して起きる状態にあり、今まさにその岐路が訪れている。戦後の世界ではずっと平和主義・楽観主義が続いてきましたが、ここに来て金融危機やテロが立て続けに起きていることの意味を、考えなくてはいけない。ひょっとしたら、世界には20世紀初頭よりももっと大きな危機が訪れるかもしれません。
世界情勢を読み解く上でキーワードとなるのが、市場経済と民主主義です。今、世界の多くの国は市場経済へと進んでいますが、市場経済が発達した国では中産階級が生まれ、その後必ず民主化が始まります。市場経済と民主主義は密接につながっているのです。かつてのフランスや日本がそうだったように、中国も同じ道を辿るでしょう。
しかし、そもそも市場経済と民主主義は違う性質のものであり、また完璧ではありません。市場経済がグローバルで広がって行くものなのに対して、民主主義はローカルなものです。そこにリスクがあります。
1つ目のリスクは、市場経済が発達するとそれが民主主義の境界線を越えて拡大し、時には行き過ぎた競争が起きて、法による統治ができなくなることです。今世界では、グローバルな資産法も裁判所もないのに、人類史上かつてないほど自由経済が叫ばれ、競争が過熱しています。
そうした中、懸念されるのは世界が「ソマリア化」することです。ソマリアは20年間も無政府状態が続き、マフィア、犯罪、貧困、麻薬などが蔓延している。国境を越えるグローバル市場主義が国家の手に負えなくなると、世界は無秩序なソマリアのようになってしまうリスクがあります。
もう1つのリスクは、市場経済と民主主義が発達するときは、個人が自由を欲しがるときでもあるということです。その気持ちがあまりにも過激化すると、人々が「自分のやりたいことをいつでも自由にできる」と思い込むようになり、不平等、不満、ナルシズム、不誠実などが蔓延し、時としてそれらはファンダメンタリズム(原理主義)やテロリズムにつながる脅威となります。
本来なら、こうした動きを監視する世界の警察やグローバル政府のような役割も必要になるはずですが、そうしたものは現在ありません。
先に述べたように、20世紀初頭の世界と今日では、こうした構造の中で、似たような状況が起きています。戦前には、各国に民主主義ではなく全体主義による政権運営を行う政府が現れ、グローバル化の脅威に保護主義で対抗し、無秩序な状態に対処しようとしました。いわば、世界中が短期的な視野に陥り、目先の利益ばかりを追っていたのです。
次の金融危機と戦争は間近?現在は「米帝国衰退」の最終段階か
市場経済の暴走という側面では、リーマンショック前後の世界も同じです。2008年に発生したリーマンショックは、金融機関がサブプライムのようなジャンクポンドで市場からお金を吸い上げ、そのモニタリングを誰もできなかったために発生しました。その結果、多くの金融機関が破綻して公的資金を注入され、国家の債務を大量に増やしてしまった。
結果的に、この金融危機は各国の政府に色々な権力を与えてしまったとも言えます。政府が国家財政が逼迫した責任を中央銀行に押し付け、金融緩和を続けさせているせいで、世界の成長率は低下しています。また、ヘッジファンドをはじめ、市場がひたすら利益確保に走り、誰もそれを止めることができない背景にも、金融緩和策が世界に大量のマネーを供給している影響があります。
こうした状況の中、私は次の金融危機のリスクはすぐそこまで来ていると思います。世界には、GDPの100%を超える債務を持つ国もありますが、これ以上どうやって債務を増やせるというのか。いまに国民は破綻するでしょう。一方で、保護主義による火種も、中東、アフリカ、ウクライナ、そして日中間などに燻っています。それらが戦争につながるリスクも否定はできません。
私は著書『21世紀の歴史』の中で、世界の秩序は今後5段階を同時に、あるいは順番に辿ることになると分析しました。第一段階はこれまで世界の秩序を司って来た米国のパワーが相対的に衰退する局面、第二段階は力を持つ10~20ヵ国が共同で世界秩序をつくろうと模索する局面、第三段階は国家の枠を越えて市場の力が世界をリードする局面、第四段階は大きな混乱や戦争などの「超紛争」が起きる局面、そして第五段階は世界の協力と調和による「超民主主義」が登場する局面です。現在の世界の状況は、米国の相対的な衰退が起きている第一段階の終わりの部分にあり、米国の警察力や法治が困難になったことにより、世界に無秩序が拡散している状態だと見ています。
これから世界がグローバルでバランスを保つために、何ができるのか。それは市場経済に関する色々なルールをつくり、世界的な法の支配を行うことです。我々にとって大切なことは、次世代を生きる子どもたちの幸せにも思いを馳せるということです。自分の子どもだけでなく、他人の子どもの将来も真剣に考えなくてはいけない。利己的ではなく、「利他的」になることこそが求められているのです。
日本人が持つ「利他主義」の精神は新しい世界の秩序をリードする
それでは最後に、世界の主要国に関して、直近の見通しをお伝えしておきます。前述のように、相対的な衰退が起きている米国において興味深いのが、先日利上げを表明したFOMCがこれからどうするのか、ということです。米国の中央銀行は世界の中央銀行でもあるという立場から、長らく世界経済に大きな影響を与える利上げは行ってきませんでした。しかし、今は「米国の中央銀行」という視点に立ち戻って利上げを行なう状況になっている。世界経済への影響が、とても見えにくい状況にあると思います。
一方欧州は、難民問題やユーロ危機もあり、EU自体も構造問題を抱えている状況です。その意味でこれからの欧州は、世界が模索している市場経済の統治に関する実験場とも言えます。ただ、欧州ではリーマンショック後の改革により、金融機関のモニタリングの一元化、ESM(欧州安定メカニズム)の発足による潤沢な資金供給体制の確立など、多くの進歩がありました。ギリシャ問題も世界中から不安視されましたが、そもそもギリシャのGDPは欧州全体の1.5%程度に過ぎないため、影響は大きくないと思います。
新興国については、長期か短期かで見方が変わってきますが、中国は向こう3年ほどの間、想像以上に経済が停滞するのではないかと思います。現在の実質成長率も、おそらく3~4%程度ではないでしょうか。
そして日本についてですが、私は日本人が持つ「利他主義」のイデオロギーに注目しており、今後グローバルにおいて大きなリーダーシップになっていくと思います。これは、私が予言した世界秩序の第五段階における「超民主主義」のイデオロギーとまさしく同じもの。日本の学者や政治家がもっとそうしたイデオロギーを発信し、日本の社会が利他主義のプロパガンダになってほしいと願っています。
目次に戻る
蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス編集長 2016/01/01
読者の皆様、あけましておめでとうございます。
本年より、日経エレクトロニクスは編集体制が変わります。前任の今井の後を継ぎ、蓬田(よもぎた)が編集長になりました。今年もこれまで以上に、読者の皆様にとって価値のある情報をお伝えできるよう、編集スタッフ一同が最大限のパワーで取り組んでまいります。
さあ、いよいよ2016年が幕を開けました。今年が読者の皆様にとって実り多い年になることを祈りつつ、今年の要注目イベントを展望していきたいと思います。
まずは1月に米ラスベガスで開催される「2016 International CES」です。ここ最近は自動車に関する話題が注目を集めていますが、今年はどうなるでしょうか。
昨年のCESでは、トヨタ自動車が前日の会見で、燃料電池車に関する特許の実施権を無償提供するという驚きの発表を行いました。またドイツAudi社が自動運転車をシリコンバレーからラスベガスまで走らせるというデモを行い、注目を集めました(関連記事)。今年も、「AI(人工知能)」など含め、自動運転車に関するトピックは数多く登場しそうです。
2015年のCES開幕の前日に、トヨタはFCV関連特許の無償開放を宣言した
もう一つの注目点は、すべてのモノをインターネットに接続するというコンセプトの「IoT(Internet of Things)」です。ここ最近、情報機器や産業システムに関わる企業の多くが、IoT分野に関する取り組みを強化しています。今回のCESでも、IoTに関わる戦略的な提携や、業界団体の動きなども見えてきそうです。
日本の電子部品メーカーの取り組みも注目を集めそうです。例えばヒロセ電機は、約10年ぶりにCESに出展し、自動車関連の展示を行うようです。先日、ザインエレクトロニクスとともに、車載のサラウンドビューモニターのシステムに向けた伝送技術を展示することを明らかにしています。またTDKも先端技術に関する展示を特定顧客向けに行う予定です。
Google社は何を語るか
1月末から2月初旬にかけては、「半導体のオリンピック」と言われる国際学会「International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)2016」が今年も米サンフランシスコで開催されます。今年はなんと、米Google社が人体埋め込みデバイス向けの回路設計技術について講演するということが話題となっています(関連記事)。人体に埋め込むデバイス関連技術はここ最近ISSCCでも発表が多くなっておりましたが、その技術をGoogle社がどのように扱おうとしているのか。要注目の講演となりそうです。
2月の後半には、モバイル業界の祭典と言われる「MWC(Mobile World Congress)」がスペインのバルセロナで開幕します。もともと欧州の携帯電話事業者が中心となったイベントでしたが、今やスマートフォン(スマホ)やIT、半導体や電子部品など、モバイル機器に関わるあらゆる企業がこのタイミングを狙って新製品発表をするなど、業界の一大イベントに変貌しました。
今年のMWCはやはり、第5世代移動通信「5G」関連の話題が注目を集めそうです。加えて、免許不要帯域で「LTE」を活用したサービスを行う「アンライセンスLTE」といった技術の話もトピックに上がりそうです。
3月には、中旬に米Texas州のAustinで開催される「SXSW Interactive」が注目を集めそうです。音楽や映像の分野でのイベントも話題となる「サウスバイ」ですが、新進気鋭のベンチャー企業が表に出てくるイベントとしても知られています。著名な投資家やベンチャーキャピタリストも顔を揃えますが、ここ最近は日本のベンチャー企業も出展社数を増やしています。モノづくり系の新しいベンチャーの動きを把握する意味でも、同イベントは何らかの格好でご紹介したいと考えています。
リオ五輪を支える技術とは?
そして夏には、今年最大のイベントの一つである「ブラジル・リオデジャネイロオリンピック」が開幕します。世界中のトップ・アスリートによる競技の注目度はさることながら、最新鋭の放送技術や通信技術、スマホなどと連携したサービス、放送とインターネットの垣根を超えた取り組み、といった観点でも要注目です。放送システムの開発メーカーなどは、2020年の東京五輪を見据え、パイロット的な技術の導入も検討してきそうです。こうした最先端技術に関する取り組みも、報じていこうと考えています。
9月には独ベルリンで、「IFA 2016」が開かれます。韓国Samsung Electronics社やソニーなど大手メーカーが、最新の家電を発表するイベントです。
私は4年ほど前にIFAを取材しましたが、展示会場が来場者にとって見やすく整備されていることにとても驚きました。多数の出展社が集う巨大な展示会でありながらも、目的とする製品がはっきりしている来場者にとっては効率的に見て回れる展示会だと感じました。特にびっくりしたのは、白物家電の種類の豊富さです。洗濯機や調理家電が多数出展されており、そこかしこで実演もありました。CESとはまた異なる雰囲気のIFAですが、こちらも日経エレクトロニクスで詳報していきたいと思っています。
10月には千葉県の幕張メッセで、「CEATEC JAPAN」が開催予定です。ここ数年、大手メーカーが出展を取りやめるなど、発信力が問われることも多いCEATECですが、日本のエレクトロニクス分野の最大級のイベントとしてもっと盛り上がってほしいと思います。毎年日経エレクトロニクスは、「CEATEC特別取材班」として編集部員総出でニュース記事を速報しており、今年も面白いニュースが出てくることを願っています。
以上、概要程度のまとめでしたが、我々はこうしたイベントを含む「エレクトロニクス産業の季節感」を重視しながら情報収集と情報発信に努めて参りたいと思います。
今年も、日経エレクトロニクス、そして日経テクノロジーオンラインをどうぞよろしくお願いいたします。
大石 基之=日経ものづくり編集長2016/01/01
スマート工場の将来がテーマとなった「FACTORY 2015 Fall」の会場の様子
あけましておめでとうございます。旧年中は、「日経ものづくり」と「日経テクノロジーオンライン」をお引き立ていただき、誠にありがとうございました。今年1年も、編集スタッフ一同、読者の皆様のお役に立てるよう、一生懸命がんばってまいります。
さて、ドイツの「インダストリー4.0」や米国の「インダストリアル・インターネット」など、Internet of Things(IoT)やビッグデータを活用した新しいものづくりの在り方にますます関心が集まっています。インターネットなどの通信ネットワークを介して工場内外のモノやサービスを高度に連携させることによって、今までにない価値や新たなビジネスモデルの創出を目指す試みが世界中で進みつつあります。
例えば、次世代の「賢い工場」(スマート工場)は、既存の自動化や省エネルギー化といった生産革新の取り組みにとどまらず、顧客が求めるモノやサービスを的確に捉え、それを迅速に設計・生産し、最適なサービスを提供するための仕組みに進化していきます。
このために欠かせないのが、工場の生産ラインを司るFAシステム(リアルな世界)とITシステム(バーチャルな世界)を高度に連携させることです。この目標に向かって、2016年は、「リアルな世界」と「バーチャルな世界」の融合が進む1年となるでしょう。ここでリアルの世界とは、実際の生産ラインを構成する機械や治工具、ワーク、人など現実に存在するものを意味します。
こうしたリアルな世界とITシステムというバーチャルな世界がリアルタイムで連携できるようになれば、さまざまな“ご利益”がもたらされます。例えば、生産ラインのビッグデータをリアルタイムで分析・活用したり、生産ラインの機械が人や別の機械とコミュニケーションして自律的に動いたり、顧客の要望に最適化したカスタマイズ品を大量生産品と同等の効率やコストで製造する「マス・カスタマイゼーション」を実現できたり、といったことが可能になります。このためのカギを握る技術が「デジタル化」です。リアルの世界に存在するモノやコトをデジタル化し、バーチャルな世界で扱えるようにする必要があるからです。
ものづくりのスマート化は、製造業に身を置く技術者にも大きな変革を迫ります。今後の製造業では、技術者に求められる要件も大きく変わっていくことは確実です。大量のデジタルデータを取り扱ったり、ウエアラブル端末などのデジタルデバイスを使いこなしたり、製品や生産設備の設計において手戻りと試作を減らすために仮想現実(VR)や拡張現実感(AR)技術を使うことが当たり前になるでしょう。将来的には、人工知能(AI)を活用して生産管理手法の構築や材料技術の開発に取り組んだりする可能性もあります。こうしたデジタル技術の使いこなしに長けた人材、いわゆる「デジタル人材」をいかに育成することができるかが、2016年の製造業の大きなテーマとなりそうです。
日経ものづくり、および日経テクノロジーオンラインは、こうした潮流の変化を逃すことなく、最先端情報を報道していきます。「グローバル」という視点を強く意識しつつ、製造業に身を置く企業が世界での競争に勝つためにはどのような技術・戦略が求められるのか、答えを提供します。日経ものづくり、日経テクノロジーオンラインの根幹を成す技術情報については、設計・開発と生産の双方で技術革新の詳細を徹底的に報道していきます。日経ものづくりと日経テクノロジーオンラインの今後にどうぞご期待ください。
製薬業界×デジタルヘルス、始まる
2016/01/01 小谷 卓也=日経デジタルヘルス編集長
明けましておめでとうございます。
前身の「デジタルヘルスOnline」からリニューアルし、「日経デジタルヘルス」として3年目を迎えることができました。あらためて読者や取材先の皆様に感謝を申し上げます。
日経デジタルヘルス編集部では昨年に引き続き、「今年を占う10大キーワード」を選定しました。
■編集部が選ぶ、2016年を占う10大キーワード
(*前回の「編集部が選ぶ、2015年を占う10大キーワード」はこちら)
2016年、デジタルヘルス分野ではどのような動きが話題となるでしょうか。
まず、1月から利用が開始されるマイナンバー制度と関連し、医療分野における番号制度(医療等ID)の議論が本格化する見込みです(関連記事)。
さらに、2015年8月に厚生労働省が「遠隔診療」の適用範囲について広い解釈を明確にする通達を出したことを受け、遠隔診療に関するサービスが続々と登場しそうです(関連記事)。
2015年の日経デジタルヘルス・アクセスランキング1位となった、「血液1滴でがん早期診断、『パンドラの箱』が開く」の記事のように、がんの超早期発見に関する話題も相次ぐことでしょう。
これらの話題に加え、筆者が特に注目しているのは、前出の「編集部が選ぶ、2016年を占う10大キーワード」の記事の9番目(50音順)に出てくるキーワード、「製薬業界×デジタルヘルス」のトレンドです。
危機感を背景に模索が始まる
これまでは、決してデジタルヘルス分野との接点が強くなかった製薬業界。その潮目が変わりつつある背景には、製薬業界が置かれている環境の変化があります。
最近では慢性疾患に対する新薬が飽和状態で、「ブロックバスター」と呼ばれる製薬会社にとって継続的な収入源となる大型新薬が生まれにくくなっています。特許切れを迎える薬も多く、次世代薬の候補(パイプライン)も枯渇気味なのが実態です。さらに、国際共同治験や世界同時の承認申請が増えるなど、臨床試験の複雑さが増し、臨床試験に要する時間やコストが増加傾向にあることも、製薬企業の大きな課題となっています。
Medidata Solutions社が医薬品の臨床試験に活用する米Vital Connect社のウエアラブル端末
こうした危機感を背景に、製薬業界が模索し始めているのがデジタルヘルス技術の活用というわけです。例えば、医薬品の臨床試験支援を手掛ける米Medidata Solutions社は、ウエアラブル端末を活用して、臨床試験においてこれまで得られなかったデータを取得したり、試験効率を高めたり(コストダウン)しようとしています(関連記事)。
バイエル薬品は、「ウエアラブルデバイスやスマホのアプリなどを用いて、製薬会社として薬以外にも患者にソリューションを提供できる可能性がないか検討している」としています(関連記事)。患者の治療に寄与するという製薬会社としての本分は維持しつつも、そのツールは必ずしも“薬”だけではない、という流れになってきているのです。
2014年11月に施行された「医薬品医療機器等法(薬機法)」で、ソフトウエア(アプリ)も医療機器の対象となったことで、今後は“治療効果を認められたアプリ”なるものも順次登場する見込みです。こうした流れも、患者の治療を本分とする製薬企業とデジタルヘルスを近付ける一因になっていると言えそうです。
一方、薬そのものの価値を高めるため、ICTを活用しようとする動きも出てきています。2015年9月には、米国FDAがシリコン製のセンサーチップを内蔵した錠剤の新薬承認申請を受理しました。また、医薬品のパッケージに錠剤を取り出したことを検知する機能と通信機能を搭載し、服薬アドヒアランスの向上を狙う取り組みも出てきています(関連記事)。
果たして「デジタルヘルスDAYS2016」では…
さまざまな取り組みが出始めたとはいえ、現時点ではまだ、製薬業界のスタンスは模索状態と言えるのかもしれません。しかし、その動きが本格化したとき、それはデジタルヘルス分野にとってとても大きな一歩となるのではないでしょうか。
日経デジタルヘルスがかねて提唱している「ソーシャルホスピタル」の世界。その実現には、テクノロジーの“使い手”側、すなわち社会実装により近い立場にいるプレーヤーの本格参入が欠かせません。製薬業界は、その一つとして重要なプレーヤーになる可能性があると考えています。製薬業界×デジタルヘルスに注目しているのは、そのためです。
日経デジタルヘルスが提唱する「ソーシャルホスピタル」の概念図(イラスト:楠本礼子)
日経デジタルヘルスは昨年に引き続き、「デジタルヘルスDAYS2016」(2016年10月19~21日、東京ビッグサイト)を開催予定です(昨年のイベントの様子はこちら)。デジタルヘルスに関わるさまざまな立場のプレーヤーが一堂に会する同イベントで、果たして今年は製薬業界の存在感が高まっているのか。そんな視点も含め、ぜひ皆さまもデジタルヘルスDAYS2016、そして日経デジタルヘルスにご注目いただければ幸いです。
末筆ではございますが、皆様のご健勝をお祈り申し上げまして、新年のごあいさつとさせていただきます。
狩集 浩志=日経テクノロジーオンライン編集長2016/01/01
新年、明けましておめでとうございます。
2015年も日経テクノロジーオンラインをご愛読いただきありがとうございました。技術者の皆様を応援し、新たな産業の発展に貢献するというコンセプトの下、2016年も皆さまに役立つコンテンツを鋭意、提供して参ります。
さて、2015年は皆様にとってどのような年となったのでしょうか。日経テクノロジーオンラインの多様な情報発信を通じて、個人的に感じているのは産業や企業、ビジネスといったものを“再定義”する時代が始まったということです。多くの製造業が成熟しつつある中で、いわゆる次の“メシの種”を生み出すために、競合企業、異業種が入り乱れて様々なコトづくりが顕在化した1年だったのではないでしょうか。
印象的だったのが、これまで自前主義だった大手製造業が脱自前主義に向けて、舵を切り始めたことです。大きなインパクトを与えたのは、何と言ってもトヨタ自動車による人工知能への巨額な投資の決定でした。
人工知能を用いた自動運転技術は自動車業界を超え、多くの異業種を巻き込んで開発競争が繰り広げられています。自動運転車が現実のものとなれば、“自動車”という物理的なものが再定義され、消費者の抱いている“所有して利用する移動体”という概念を一変してしまうかもしれません。
記者会見で登壇したトヨタ社長の豊田章男氏(右)と、新会社のCEOに就任するGill A. Pratt氏(左)
こうした状況に危機感を持つトヨタ自動車は、人工知能の研究開発拠点となるTOYOTA RESEARCH INSTITUTE(TRI)社を米国シリコンバレーに設立し、2020年までの5年間に約10億ドル(1ドル=120円換算で約1200億円)を投じる計画です(有料会員向け関連記事)。
加えて、米Massachusetts Institute of Technology(MIT)のコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)および米Stanford Universityのスタンフォード人工知能研究所(SAIL)と、人工知能に関する研究で連携し、5年間で合計約5000万米ドルの予算を投じると発表しています(関連記事)。
最近では、「ディープラーニング」など機械学習の応用技術に強みを持つベンチャー企業であるPreferred Networks(PFN)に10億円を出資することを明らかにしました(関連記事)。2016年1月に米国で開催される展示会「2016 International CES」(2016年1月6~9日)で共同開発の成果を発表するとしています。日経テクノロジーオンラインでは、もちろん速報をお届けする予定です。CESでは、自動車メーカーや自動車部品メーカーが多数参加し、自動運転に関する発表が相次ぎそうです。
PFNにはこのほか、ファナックが2015年9月に9億円を出資しており、大手製造業が自前主義から脱却し、新たなパートナーとの提携を欲していることが良く分かる事例といえるのではないでしょうか。
日本に何が残り、なくなってしまうのか
2015年、エレクトロニクス業界は世界的に企業買収のニュースが飛び交いました。IntelのAltera買収(関連記事)をはじめ、DellのEMCの買収(関連記事)、AvagoのBroadcomの買収(関連記事)など大きな話題が相次ぎました。
一方、日本では業績不振にあえぐ電機関連メーカーの今後の身の振り方に注目が集まっています。シャープは液晶パネル事業や家電事業をどう切り分けるのか、東芝はエネルギーと半導体の専業メーカーになってしまうのか、など生き残りをかけて“企業の再構築”に挑まなければならなくなっています。
また、電子部品ではミツミ電機がミネベアと経営統合することで基本合意しました(関連記事)。機械加工に優れるミネベアと、通信やセンサー技術を得意とするミツミ電機が組むことで、新規事業を創出していくとのことです。まずは自動車HUD(ヘッド・アップ・ディスプレー)を開発するそうです。このほか、医療・介護やロボット、インフラ分野に注力し、IoT時代を見越した事業を創出するとしています。
日本はこれまで優れた電子部品を開発し、時代をリードしてきました。しかしながら、モノ売りの立場を脱していません。そのため、国際競争の中で、価格下落にさらされ、悪戦苦闘を強いられています。モノを売ることだけでなく、生活をどう変えていくのかという構想を練り、それを実現するアルゴリズムやシステムをまるごとビジネスにしていく気概が必要ではないでしょうか。まだまだ優れた要素技術はあるのですから…。
日経テクノロジーオンラインでは、日本の持つ優れたセンサー技術に注目し、新たに「センシング」をテーマにしたサイトを2016年1月に開設する予定です。日本が得意とするセンサー技術に、人工知能技術や解析技術を加えることで、センシングを核とした新しい産業創出を支援して参ります(関連ページ)。ぜひご期待ください。
2016年も引き続き、日経テクノロジーオンラインをご愛読いただければ、幸いです。
国内初の「フィンテックファンド」は成功するか、金融ベンチャーに課せられた高いハードル飯山 辰之介2016年1月7日(木)NBO
IT(情報技術)を活用して新しい金融サービスを生み出そうとする「フィンテック」と呼ばれる領域に、ベンチャー企業の成長を促す資金が流れ込んでいる。
SBIホールディングスの子会社で投資事業を手掛けるSBIインベストメントは昨年12月、フィンテック分野の有望ベンチャーに投資する「FinTechファンド」を設立したと発表した。「フィンテックに特化したファンドは日本初」(SBIインベストメントの後藤健取締役)という。出資者にはソフトバンクなど事業会社のほか、横浜銀行やソニーフィナンシャルホールディングスなど地方銀行、ネット銀行の主要プレーヤーも顔を並べた。通信大手KDDIも2014年に設立した50億円規模のファンドで、フィンテック関連ベンチャーへの投資拡大を検討しているという。
もっとも、日本ではまだフィンテック分野で急成長しているベンチャー企業は多くない。従来のインターネット関連分野と比べ、フィンテックではベンチャーが超えるべきハードルが数多くある。これを乗り越えられなければ、フィンテック分野への資金集中は一時のバブルで終わってしまう恐れもある。
少数のベンチャーに投資集中
SBIが設立したFinTechファンドは設立発表から6日後の28日には第一弾の投資案件を発表している。対象はクラウド型の会計ソフトを手掛けるfreee(東京都品川区)。簿記や会計の専門知識がなくても経費の処理から決算書類の作成まで、ほぼ自動でできるサービスを展開。中小企業を中心に利用が急増しているという。米グーグル出身の佐々木大輔社長が2012年に設立した。同社は昨年8月にも米大手ベンチャーキャピタルやリクルートホールディングスなどから35億円の出資を受けており、2015年中に総額45億円の資金を調達するのに成功している。
SBIインベストメントのFinTechファンドが出資したベンチャー企業、freeeの佐々木大輔社長
昨年はfreeeに加えてクラウド会計サービスを手掛けるマネーフォワードも地方銀行などから計16億円を調達するなど、有望なフィンテックベンチャーに投資資金が集中する傾向が顕著だった。
むしろ課題は「投資資金はジャブジャブに集まっているが、投資先がない」ことだと多くの業界関係者が指摘する。SBIインベストメントの後藤取締役も「(フィンテック関連企業は)日本で100社あるかないか程度で、まだ少ない」と認める。
フィンテック領域はネットベンチャーが手掛けるには課題が多い領域だ。たとえばスマートフォン向けゲームでは、サービスの一部に不備があったり、バグ(プログラムに含まれる誤りや不具合)があったりしても、後からユーザーの指摘を受けながら改善していくことができる。一方、消費者の大事な資産である「お金」を扱うフィンテックでは、こうしたミスやバグを残したままサービス展開することは基本的に許されない。スピードよりも完成度が重視されるため、ベンチャー企業の強みである「スピーディーな事業展開」が実現しにくいという課題がある。
数少ない例外として、freeeやマネーフォワードが急速に事業を拡大できたのは、両社がお金を直接扱うのではなく、顧客や金融機関などから取得した「お金の流れ」という情報を扱っているからだった。
仮にフィンテックベンチャーが一歩踏み込んで、「お金」そのものを扱おうとすれば、そこには厚い規制の壁が立ちはだかる。たとえば比較的規制の壁が低いとされる送金サービス一つをとってみても、扱える金額の上限は100万円以下と少額で、10万円を超える場合はその都度、本人確認する必要がある。さらに送金途中で滞留している資金の100%以上の額を資産保全する必要もある。
そもそも、日本の大手銀行が展開する金融サービスの利便性は高い。ネットバンキングが発達しており、ATMやCD(キャッシュディスペンサー)も全国各地に設置されている。ここで大手銀行に伍して、規制の壁を乗り越えつつ、ベンチャー企業がフィンテックを展開していくのは簡単ではない。米国では10代、20代の「ミレニアル世代」と呼ばれる若者がフィンテックを牽引しているが、少子高齢化が進み、若年層が薄い日本では、こうした若者向けサービスが育ちにくいという課題もある。
好循環、生み出せるか
2014年から2015年にかけて、米国ではスマホ決済を手掛けるスクエアやネットを介して資金の貸し手と借り手をつなぐレンディングクラブなど、フィンテックベンチャーの上場が相次いだ。一方で、日本のベンチャーが上述のような課題を乗り越えて急成長し、単独で上場していくのは現状では難しいだろう。現実的には、大手金融機関による出資やM&A(合併・買収)が日本のベンチャーにとって当面のゴールになりそうだ。銀行が持ち株会社の傘下にできる子会社は金融業務に限定されているが、この規制を緩和する議論も進んでいる。
ただ、大手銀が拙速にベンチャー企業のフィンテックサービスを顧客に提供して問題が発生しては、信頼に大きな傷がついてしまう。そこで銀行とベンチャーとの間にある垣根をできるだけ下げる役割を期待されているのがファンドだ。「金融機関は名前も知られていないベンチャーとは付き合いにくい。我々が有望なベンチャーに資金供給することで彼らを『評価』し、銀行との橋渡しをしていきたい」とSBIインベストメントの後藤取締役は話す。
この仕組みがうまく回り出せば、フィンテックは一時的な「バズワード(流行り言葉)」で終わることなく、継続的な成長が見込める分野になるだろう。フィンテック業界では金融に精通した人材が不足していると言われるが、ベンチャーの成功事例が数多く出ることで、大手金融機関から野望を持った若手人材が飛び出してくる可能性もある。ファンドの動きが活発化する2016年は、この好循環を生み出せるかどうかが決まる、フィンテックにとって重要な年になる。
目次に戻る
2015年12月16日 TK
NuAns NEOは外装を自由に選べるのが特徴。色、質感ともに異なるカバーを2つ組み合わせ、好みのスタイルで利用できる
11月30日、トリニティというスマートフォン向けアクセサリの開発・製造・販売を行う埼玉県新座市の会社から「NuAns NEO」というWindows 10 Mobileを採用するスマートフォンが発表された。社員数わずか14名と小規模な同社だが、創立10周年を記念する製品を開発するため、これまでは取り組んでこなかった”本体”の開発に挑戦した。
チームメンバーは6人。どうすればたった6人で他にはないユニークなスマートフォンを作ることができるのか。小さな物づくり企業が、どのようにしてスマートフォンを開発することができたのか。そして、どのようにして”ユニークさ”を盛り込むことが出来たのか。パートナーとして協力して頂いた企業や技術なども含め、可能な限りの情報を公開しながら、その背景を短期連載で紹介していきたい。
右から治田、青木(以上TENT)、永山、星川、中村、そして筆者
この製品の開発に携わっている同社の社員は、社長の星川哲視と社員の中村麻佑のみ。ここにデザイナーとしてTENTの共同代表である治田将之と青木亮作、フリーランスエンジニアとして永山純一、それに私自身(本田雅一)が加わった6人のプロジェクトだ。1月末の出荷に向けて、現在はプロジェクトにかかわる人数を増やしているが、基本的には6人だけで進めたプロジェクトだ。
昨今はスマートフォンを他社に供給する中国メーカーも増えてきたため、小さな会社でもスマートフォンを発売することは難しくない。日本で使用可能にするための手続きを行い、ある程度の台数調達を約束すれば、自社ブランドのスマートフォンを出すことができる。
しかし、我々が挑戦したのは、”他の誰もが作っていない”製品を生み出すことだ。世の中にすでに存在する商品ならば、自分たちで新たにデザインするよりも、既存製品の中から選んだ方がいいのだ。他社の開発・設計データなどは一切利用せず、商品コンセプトから機構設計、電気設計、各種仕様まで、すべて自分たちだけで開発したところに特徴がある。
そもそも、なぜスマートフォンをトリニティが独自開発することになったのか、そしてなぜ筆者がそこに加わったのかについて話をしておきたい。
私がトリニティを知ったのは、現在はテレビとレコーダ/ゲーム機などを接続するインターフェイスとして定着しているHDMIが普及しはじめた頃である。初期のHDMIは接続時のトラブルが多く、その原因にはあまり知られていない話も多かった。中でも”EDID”というディスプレイの性能や仕様を示すコードの扱いはトラブルの元になっていたが、彼ら(トリニティ)はその問題に対して原因の根本から解決したユニークな商品を販売していたのだ。
このユニークな商品の評価記事を担当した私が、詳細部分を確認するために彼らの会社に問い合わせの電話をしたところ「実は本田さんが問題の原因と解決策を書いた記事を参考に商品開発をしたんです」と意外な答えが返ってきた。記事掲載から3カ月程度しか経過していなかった。”こんなに速く商品化できるものなのか”と驚いたことを憶えている。
その後、トリニティはスマートフォンの周辺アクセサリに事業の中心に移したため、彼らの製品を直接評価、紹介する機会はほとんどなかったが、業界動向などの情報交換は続けてきた。
NuAns NEOはスマホ本体だけでなく、同じ世界観を共有するUSB Type-Cコネクタを用いたアクセサリ、周辺機器に拡げるよう商品展開を行う
昨年の夏ごろ、星川から打ち明けられたのが「周辺デバイスやアクセサリだけでなく、いつか”本体”も作りたい」という想いである。実は私自身も「いつかはエレクトロニクス業界の中心となっている商品の開発に、自分自身でかかわりたい」と考えていた。
ご存知の通り、アップルがiPhoneで”破壊的イノベーション”を起こして以来、ありとあらゆるエレクトロニクス製品市場が、その形を大きく変えてきている。携帯電話の領域にとどまらず、テレビ受像機やパソコン、カメラ、オーディオからボイスレコーダなどのビジネスツールまで、エレクトロニクス製品でiPhoneの影響を受けていない市場はほとんどない。
その結果、スマートフォンはライフスタイルの中心、あるいは基盤とも言える存在になろうとしている。その直前、すなわちスマートフォンがコモディティとなっていく変節点ならば、ユニークな製品を提案できるのではないかと思うからだ。
前述したように毎年のように進化してきたスマートフォンも、”商品としての形”は落ち着き、世界の”スマホ工場”になっている中国・深センに行けば電気設計などを経験豊富なEMSと共同で行うことができる。
また、大手メーカーの多くがiPhoneをお手本に、”より良いiPhone”を追いかけている。先入観を捨ててゼロから商品コンセプトを作れば、別のユーザー層に訴求できるのではないか。
”今ならできるかもしれない”、”商品として成立させられるのではないか”。そんな話を星川とはしていたものの、実際にプロジェクトが立ち上がったのは今年(2015年)の春ごろである。
後付けカバーを被せるのではなく、最初から自分で選んだ外装を好みやファッションに合わせられるよう設計段階から考えて開発した
昨夏から今年の春まで、何もやっていなかったわけではない。しかし、前に進むにはいくつもの問題をクリアしていく必要があった。中でも大きかったのが、「Windows Phone問題」である。
いくつかの理由があって、星川氏と私はWindowsを採用したスマートフォンを作りたいと思っていた。ディスカッションを重ねての結論というわけではない。最初から二人とも、作るならばWindowsしかないと確信していたのだ。
Windowsを採用するスマートフォンのシェアは、グローバルでたった2%しかない。日本ではほぼゼロ。なぜそんなマイナーなプラットフォームを使うのか。なぜAndroidスマートフォンにしないのか。そんな疑問が当然、出てくるだろう。
Windowsを選んだ理由は後述するが、それ以前に、昨年時点ではWindows Phone 8.1を日本市場向けの端末に採用するには大きな壁を越える必要があった。
Windows採用のスマートフォンは2011年末に発売された「IS12T」が最初で最後でだった。このためスマートフォン向けWindowsは日本市場のサポートが、極めて弱い状況だったのだ。
対応する電子地図は日本国内の道路・地理情報をほとんど掲載しておらず、フォント(文字デザイン)も中国向けデザインが流用されるなど、日本市場に投入するには、独自に何らかの代替機能を提供する必要があった。
たとえ採用しても、日本のユーザー向けに完全な機能が提供できない中途半端な製品になってしまっては迷惑をかけてしまう。
そこで、マイクロソフトが確実にWindows 10 Mobile(スマートフォン向けのWindows 10)を日本市場でも立ち上げるという確約が必要だった。日本市場でも地図がサポートされ、電子秘書機能も日本で使えるようになると確認できたのは昨年末。そこでやっと、スタートラインに立つ準備ができた。
本体とカバーは一体化されたデザインになっている
では、なぜWindowsにしようと考えたのか。
まず企業ユースに適したスマートフォンのプラットフォームがなかったことを挙げたい。唯一、ブラックベリーが企業向けには良い端末として知られていたが、その勢いは削がれて、特に日本の存在感はない。また、Windowsベースで作られている企業システムとの整合性が高く、また企業向けのWindowsパソコンと同じように管理機能も豊富だ。これらを考えれば、ある程度の企業向けニーズを満たせるのではないか。
我々のターゲットは、あくまでもコンシューマ市場だが、企業ニーズをある程度見込むことが出来れば、商品の企画として成立させやすくなる。この頃は、まだWindows 10 Mobileがパソコンの世界とスマートフォンの世界をシームレスにつなぐための機能を提供するとは発表されていなかったが、”ビジネスパースンが使いこなす道具としてのスマートフォン”にしたいという考えはふたり共通のものだった。
さらにふたりに共通する感覚的な部分で、ユーザーインターフェイスの実装や画面レイアウトなど、ソフトウェアのデザインにかかわる部分でAndroidよりも洗練されていると感じていたことも大きい。
そしてなにより、Androidスマートフォンは自分たちが開発しなくとも、既存製品が数多く存在している。ゼロからコンセプトを作り、設計までするならば、発売されている製品数が少ない、しかし成長する余地の大きいプラットフォームがいいと考えたのだ。
こうして徐々に”作る”方向で固まってきたスマートフォン作りだが、本格的な調査に乗り出したのは今年春、4月のことだ。さらにプロジェクトチームの参加メンバーが確定して本格スタートしたのは5月下旬だった。
まずフリーエンジニアの永山氏を加えて可能性を検討。マイクロソフトと連絡を取り合いながら、生産パートナーとなりうる中国のEMS企業を探した。
並行して、デザインチームは「TENT」という二人のクリエイティブユニットに頼むことにした。彼らがもしオファーを断っていたら、今のNuAns NEOは存在しなかっただろう。そもそも「NuAns」というブランドは、トリニティとTENTの共同プロジェクトとして立ち上がっていたものだ。オリジナルのNuAnsプロジェクトとは別にスマートフォン作りのプランが立ち上がり、スマートフォン作りにTENTが加わることで「NuAns」を軸にした商品企画にしようとなったのだ。
電気設計はEMS企業側の比重が大きいが、外観やコンセプト作りはもちろん、細かな機構設計などは、自分たちでコントロールしなければ、思い通りの製品にはなっていかない。
TENTの青木氏と治田氏は、ふたりとも大手電機メーカーで工業デザインを任されてきた人物で、”見た目”や”雰囲気”といった面のデザインだけでなく、細かな機構設計を詰め、素材の違いなども意識しながら作り込んでいける実力と経験を持っている。
前出の永山氏も、ソフトウェアや電気設計の知識だけでなく、他NuAns製品などの開発経験も経て、射出成型や中国EMS企業とのコミュニケーション能力がある。所属する組織はバラバラだが、こうした少人数が同じコンセンサスをもって同じ目標に取り組むチームを作れたことが、プロジェクトが前に進んだ一因だろう。人数が少ないことで、各々が全体を見渡せ、本音で話ができる。チームの人数が2倍だったなら、そうは行かなかっただろう。
それと同時に、パートナーシップの構築という意味では、Windowsを選択したことが、我々にとって大きくプラスになった面もある。
繰り返しになるが、中国には星の数ほどのEMS企業があり、スマートフォンをメニューとして持っている会社も少なくない。そうした中で、適切なパートナーを探し出すのは、針山から特定の一本を探し出すようなものだ。
しかし、マイクロソフトはWindows 10 Mobileを盛り上げていくため、中国の優秀なEMS企業を探し、パートナーシップを結んで、NuAns NEOプロジェクトのようなスマートフォンプロジェクトとエンゲージメントする「CTE(China Technology Ecosystem)」というプロジェクトを進めていた。CTEを活用し、マイクロソフトと連携しながらパートナー候補を絞り込むことができた。
我々のパートナーに対する条件はシンプルだが、実は見つけることが難しい。
条件は完全にオリジナル設計のWindows 10 Mobileデバイスを、共に開発してくれるパートナーであること。しかし、どのEMS企業も一度デザインしたシャシーデザインを、たくさんのパートナーで使い回したい。あらかじめリファレンスデザインで設計しておき、それを色違いで買ってもらえるのが、一番手間がかからず確実に利益を挙げられるからだ。
CTEを通じて交渉したパートナー候補のEMS企業は10社にのぼる。”他製品には似ていない新しいデバイスを作ること”に興味を示す会社もいくつかあったが、具体的なプランを詰めて話し始めると腰が引けてしまう。最終的に我々が、”2016年のトレンドを見すえて考える仕様要件”を満たした設計をゼロからやってくれるEMS企業を絞り込んでいくと1社しか残らなかった。
彼らを口説くことができたのは、我々の熱意と決心があったからだとも思うが、実はパートナーとなったEMS企業にも野望があった。彼ら自身の目的を達成するために、パートナーシップを成立させた方がいいと考えたのだろう。
パートナーとなったのは、技術力も歴史もある大手EMS企業である。STB生産で大きく成長し、多くのクライアントも抱えていたが、既存の事業が大きかったがゆえにスマホの設計・生産への移行に出遅れた。Androidスマートフォンを作れる企業は多い。単に技術力と資本力がしっかりした実績ある企業というだけでは事業を拡大できなかった。
そこで彼らは、マイクロソフトおよびクァルコムとパートナーシップを結んでWindows Phoneを得意とするEMS企業として経験を積むことにしたのだ。そして、さらにライバルに対して巻き返していくために、差異化された製品を開発した事例を作ろうとした。そうした目論見と、我々のユニークな製品プランがマッチしたことで、単なる外注先ではなく、同じ目標を持つパートナーとして意識してもらうことができた。
このようなパートナーとの関係構築は、NuAns NEOを特徴付けている外装の仕上げなどにも大きくかかわっている。次回はコンセプト作りと、パートナー作りの詳細について、掘り下げて行くことにしたい。
2016年01月05日 TK
「NuAns NEO」は外装の質感にこだわっている
筆者が製品企画に加わったトリニティのスマートフォン「NuAns NEO」。現在、1月末の出荷に向け、作り込み作業は追い込みに入っている。
”追い込む”ためには生産パートナーとの綿密な作業が必要となる。本体の生産パートナーについては前回も少し触れたが、外装などデザインコンセプトを実現するための(パートナーとの)協業体制も最終的な製品の品質を決める上ではとても重要だ。
ということで、第1回に引き続き、このスマホがどのように誕生したのかをリポートする。2回以降は製品仕様の作り込みをどのような考え方で行ったかを紹介していくことにしたい。
チームがNuAns NEOプロジェクトにおいて、最初の本格的な企画会議をしたのは、2015年5月22日のことだ。”NEO”という名称はプロジェクトのコードネームでもあったのだが、実は最初の会議では”窓Pro”という仮称で呼んでいた。
パーソナルな仕事道具としての使いやすさを重視した商品にしたいと考えていたからだ。Windows Phoneの機能的特徴や、まだ日本ではスマートフォン用プラットフォームとして馴染みがないことなどを考え、20代後半から50代までの男性を主なユーザー層として想定。その中でも中心となるユーザーは、30代後半の仕事や趣味に対して積極的な人たちに据えて商品企画をスタートさせた。
昨年5月の時点ではデザイナーのTENTは合流していない。純粋に必要な機能、スペック、価格帯、ターゲットにするといったところから詰めていくことにした。”どのキャリアと話をしたのか”といった質問を受けることがあるが、どのキャリアとも話はしていない。当初からSIMフリーありきで開発してきた。
”格安SIMと組み合わせて使う格安スマホ”が、キャリア販売ではない単体売りSIMフリー端末の主流だったが、大手携帯電話キャリアが、端末のSIMフリー化に向かうトレンドの中で、機能や性能、デザインにこだわる利用者層も、いずれSIMフリー端末に興味を持ち始めると考えた。
しかし一方で、最上位の性能や機能を全部詰め込んでしまうと、8万円近い価格にせざるを得ない。SIMフリー機として販売するということは、基本的には素のままの本体価格で勝負しなければならないわけで、我々のように1モデルだけしか商品を持たないメーカーには扱いにくい。
なるべく長い期間、商品力を維持できるだけの性能も持たせる必要があったため、本体価格の目標は4万円を切るところに設定した。ただし、価格を抑えるために、最初から機能をあきらめることはしたくなかった。
価格帯を決めた上で、採用したい機能を”思いつく限り列記”し、それぞれについて”絶対に不可能”、”努力次第で対応可能”、”充分に対応可能”と、難易度の切り分けを行い、絶対に不可能であることが明らかな要素以外はギリギリまで可能性を探ることにした。
たとえ実現性が低かったとしても、可能性があるならば、時間リミットギリギリまで取り組む姿勢でなければ、小さなチーム、小さな資本で魅力ある製品、言い換えれば存在価値を認めてもらえる製品を作れないと考えたからだ。
5月の最初の会議で決めたNEOの特徴は多岐にわたるものだ。
まず”格安スマホ”では省略されがちな、しかし実際の使用感を高める上で重要な要素はすべて盛り込もうとした。単なるスペック一覧ではわかりにくく、強く主張できる機能でなくとも、日常的な使い勝手を損なうおそれのある低コスト化は避けている。
たとえば、デュアルマイクによるノイズキャンセリング機能は、騒々しい場所から電話をする際に大変に役立つ。接続コネクタも利便性や今後主流になっていくだろう、新たなスタンダードであることを考えてUSB Type-Cコネクタ採用、低価格機では省略されがちな802.11ac対応も春の時点で決めていた。バッテリに関しても「モバイルバッテリを持ち歩かなくて済むように」というのが、最初からの決めごとである。
細かいことだが、通話・通信に使う対応周波数は、グローバルで広く使われている”エコバンド(投資効率の良い経済的な周波数帯)”だけでなく、日本のキャリアが使う周波数に合わせたものであることが望ましい。無理のない範囲で対応周波数帯も多くしておきたい。
他にも例を挙げればキリがないが、電話機として、スマートフォンを使う上で、そうあるべきという部分は、コストが積み上がったとして対応するべきと考えたのだ。
もちろん、前述したようにキャリアの販売支援なしにSIMフリー機として8万円のスマートフォンを流通させる……というのも無謀だ。どこかで線引きは必要だが、派手な機能や性能をうたえる部分以外のところで、しっかりと作り込もうということだ。
一般に量産の工業製品を作る際には、どんな細かなコストも可能な限り抑えて限界費用を下げようとする。最終的にその細かなコストダウンが利益につながるが、我々が想定している出荷数は大手メーカーの開発する端末よりも、おそらく2桁ほど少ない。
商品としての価値を高めて、まずは関心を持ってもらい、関心をもって買ってくれた顧客に対しては、使用し始めてはじめて”良かった”と感じてもらえるよう手抜きをしないことで満足してもらう。限界費用を下げて収益性を追求するよりも、多少コストをかけてでも”あるべき機能はあるべきままに”作るべきだと考えたからだ。
一方、難しいと思いながらも、なんとか解決策がないか?と手探りで解決策を探した特徴的な機能もある。FeliCa技術を用いたおサイフケータイ機能の検討だ。このテーマは”絶対に不可能”と”努力次第で対応可能”の中間にあると考えていた。
おサイフケータイに使われているFeliCaという技術は、NFC Type-Fとして通信部分が標準化されている。このため、FeliCaの通信機能を搭載するスマートフォンを作ることは難しくない。対応するLSIを選べばいいだけだ。
ただし、NFC Type-Fに対応するだけでは、おサイフケータイは実現できない。中でもSuiCaへの対応は極めてハードルが高い。詳細はここでは触れないが、ソフトウェア、ハードウェアの両面で作り込みが必要となる。
加えて実際におサイフケータイに対応出来るハードウェアを作ったとしても、おサイフケータイへの対応実績がないWindows Phone向けにアプリケーションを作る必要がある。この点はフェリカネットワークスやマイクロソフトとも、かなり膝を詰めて話をした部分だった。
”本当に不可能だろうか?”と検討や話し合いを進める一方、おサイフケータイをWindows Phoneで実現する以外に、何か解決方法がないだろうか?と並行してアイディアを出し合っていた。そこで考えたのが、現在のNEOで採用されている”交通系ICカードを本体内に収納できるよう設計する”というものだった。
FeliCaは、リチウムポリマー電池の電極構造が生み出す微弱な磁界と干渉するため、カード収納部とバッテリの間を防磁しなければならないが、あらかじめ設計段階で組み込むことでシートを挟み込まずにカードを内蔵させることができる。
最終的なNEOのデザインでは、カードスペースの壁にスロープを付けることで出し入れを簡単にするといった工夫をしているが、実はこの機能はある”野望”があって採用したものだ。
NEOはNFC Type-Fに対応しているため、NFCアンテナの位置を工夫すればFeliCaカードとNEOの間で通信が可能となる。すなさちFeliCaカードを内蔵できるようにしておけば、少なくとも交通系カードの電子マネーや改札通過機能を使える上、カードから情報を読み書きできると考えたのだ。
実際にはFeliCaカードに何らかの書き込み処理を行うには、パソコン用のFeliCaリーダ/ライタ用アプリ「パソリ」に相当するアプリケーションを、Windows Phone上で開発しなければならない。現在の我々に、そこまでの開発はできないが、少なくとも読み書き可能な設計にしておけば、SuiCaの使用履歴読み出しのアプリケーションや、あわよくば”パソリ対応”も狙えるかもしれない。
自分たち自身でコントロール出来ない領域もあるため、野望はまだ野望のまま残っているのだが、最終的にモバイルSuiCa対応に一か八かで挑戦するよりも、実際にはおサイフケータイではなくカードで改札口を出入りしている人が多いことを考えて、ある時点でカード内蔵+NFCを通じたNEO本体と内蔵カードの通信機能というアイディアを提案する方向へとシフトして行った。
細かな機能の話が続いたが、まだデザイナー選定・依頼を行う前段階から、外装に関してユニークな製品にしたいと考えていた。
まずNEO開発の主体となっているトリニティが、iPhone/Xperia向けのアクセサリ製品を主業務にしていることが挙げられる。このため外装を工夫し、質感やデザインの面で差異化する技術に関して経験とノウハウがあった。
加えて、我々はつねに手でホールドしながら使う製品だけに、質感をもっとも敏感に感じる事ができる”手”とデバイスが触れる部分の触感に独自性を出したいとも考えた。近年は電機製品の急速な低価格化で、新しい生産技術や素材が陽の目を見にくくなっている面があるが、それでも自動車産業向けに技術を売り込んでいる企業がたくさんある。
もし、新しい触感、質感を得られるのであれば商品としての魅力を高めることができる。そこで素材、金型、生産技術に関して協力をい仰いだのが「K's Design Lab.」である。
彼らは大胆と言えるほど立体的な表層部を実現する金型のデザイン技術ノウハウを持つ企業で、トリニティとは「次元」シリーズというiPhoneケースで協業したことがあった。次元シリーズでは、天然素材を3Dスキャンし、それを金型に反映。実際に射出成型できる金型に落とし込んでいる。
今回はその金型技術を使うわけではないが、彼らのところに集まってくる数々の素材や成型技術を精査しながら、どのような質感、どのような見栄えを採用するのか。そして、ターゲットを決めてからは、目標達成に必要な多様な素材と生産技術の組み合わせについてアドバイスをいただいた。
並行して行っていたデザイナー選定とデザインコンセプトの構築。これらを組み合わせることで、素材・生産技術に関するパートナーが絞り込まれていった。
これは実際にNEOを開発後、大手メーカーの商品企画担当者などと話をしてわかってきたことだが、新しい生産技術に対するノウハウや情報感度は、トリニティのような電子機器アクセサリを開発するメーカーの方が高い。もちろん、大手メーカーには多くの素材、生産技術が売り込まれるため情報量は多いものの、限界費用を下げるために制約が多く、その多くは見過ごされている。
我々が採用した技術や素材も、決して(業界の中では)目新しいものではない。言い換えれば、これから物づくりに挑戦しようという方がいるならば、そしてそれが手に触れることの多い、デザインや質感、感触へのこだわりが商品性につながるのであれば、外装部品の生産技術に関して情報を集めるといいだろう。
どんな工業製品も、商品としての成熟が進んでいくと、最終的にはデザインや外装仕上げといった部分が、市場での評価に直結していくようになる。これは筆者自身が、パソコンやAV家電製品などでもダイレクトに感じさせられてきたことだ。
たとえばパソコンの場合、製品への不満の多くは性能に対するものだった。性能が悪いから買わない、あるいは性能が充分でないから買い換える。ソフトウェアの進歩とプロセッサの進歩が凄まじく早かった時代、デザインの美しさは製品選びにおいて決して高い順位に位置する項目ではなかった。
しかし産業全体の成熟が進んでくると、性能よりもデザインや自分の用途に合っているか否かといった、より実践的な要素が重要視されるようになってくる。これはどんな分野でも同じだろう。
次回(第3回)はデザインコンセプトの煮詰めと、そのデザインを実現するために、どんな素材・生産技術を用いたか、パートナーの技術を含めて紹介していくことにしたい。
目次に戻る
4.Society.Culture・Edu.・Sports・Others
2016年01月05日 TK
消化のよいおかゆやチキンスープは中国人の毎日に欠かせない料理だ(写真:j Ess/PIXTA)
2014年における北京市民の平均寿命は男性79.73歳、女性83.96歳(北京市衛生計画生育委員会「北京健康白書」)。一方、2010年における東京都民の平均寿命は男性79.82歳、女性86.39歳だ(厚生労働省「都道府県別生命表」)。女性では2.43歳差があるものの、男性については、ほとんど差はない。PM2.5、水や食品の汚染など、生活環境に恵まれてるとはいえない北京市民だが、なぜ東京都民並みに長生きできるのだろうか。
その一つの理由として考えられているのが、中国に古くからある「養生思想」である。日本にも貝原益軒の「養生訓」に代表される養生思想はあったが、明治以降の西欧医学の導入とともに、科学的でなく、怪しげなものとして退けられてきた。中国ではこの養生思想が相伝され、生活習慣となり、中国人の健康維持に役立っているのではないかと考えられる。
中国人に、次のようなイメージを持っていないだろうか。
「冷たい水を飲まない」「いつも厚着している」「女性はあまり化粧をしていない」「グルメで料理にこだわりがある」「足裏マッサージ、鍼灸、抜罐(カッピング:カップにアルコール類を入れて燃やして皮膚に当てるる療法)、気功、かっさ(小さな板などを使って背中等をこすって皮膚を充血させ、体の「毒」を排出させる療法)など民間療法を取り入れている」ーーこれらはみな、養生思想に基づく生活習慣と健康法である。
中国人が養生思想に頼る理由の背景には、西洋医学や病院に対する不信感や抵抗感がある。日本では、病気に罹ったら病院に行くのが普通だろう。中国の場合、まず漢方薬や自己治癒力で治そうとする。
たとえば、身体が冷えて風邪(夏バテは別の治療法がある)をひいた場合。風邪の初期に葛根湯を飲み、生姜を入れた足湯につかり、身体を温める。高熱でない限りは西洋薬を飲まず、生姜のスープをたくさん飲む。食事はおかゆや薬膳チキンスープ。後期になったら、咳に効く漢方薬(中国では「中薬」と呼ぶ)と同時に、肺に優しいと言われる白クラゲと梨のスープを飲む。咳がなかなか止まらず、炎症が起こった場合は、抗生物質を摂取するのではなく、塩を入れた白湯でうがいをして消炎する。
苦しそうな彼らに「病院に行って先生に診てもらったら?」「抗生物質を飲んでみたら?」とアドバイスすると、「こんな小さな病気では誰も病院に行かない」「過剰に検査をさせられ、普通の風邪なのに大金がかかる」「病院って本当に死にそうな時だけ行くところ」「良い先生に診てもらうまですごく待つから診てもらう時にはもう治っているよ」「抗生物質は身体に負担をかけてしまう」等々、そんなセリフが返ってくるに違いない。
中国では、質の高い医師・病院が非常に不足しており、ほんの一部の患者しか診療を受けることができない。現在の医療制度では、病院は利益を求めるため過剰に検査をするし、自分が運営している薬局を儲けさせるため、高価の薬ばかり出すケースがある。
筆者自身の体験だが、北京にある有名な病院で朝7時から発行される予約券をもらうため、朝6時に病院に到着したが、すでに行列できていた。幸運にも当日午後3時の時間帯の予約券が取れ、ようやく4時近くに先生に診てもらうことができた。しかし、先生はたった3秒ほど私を見て「たいしたことではないからもう来なくていい」「薬を出すから。はい次」と10時間待って診療は1分間で終わったのである。診療後、薬局の行列に並び、薬をもらい、午後5時半頃にやっと病院を出た。1日がかりの大仕事であった。
大都市の病院には全国から患者が押し寄せている。前日深夜から翌日の予約券をもらうために病院前で行列して待つ人も少なくない。その患者の多くは、地方の病院に「無理」だと判断され、「北京・上海の大病院に行きなさい。大金がかかるが少し可能性があるかも」と言われ、最後の最後の希望として家の財産を売り、借金だらけになって上京した人たちである。そこまでしてきたのに3分も診てくれず、過剰な検査を受けさせられたのに病状は全然良くならないと、怒りのあまり医師に暴力を振るったり、殺害に至る悲しい事件も起きている。
医師の立場からすれば、診療報酬が低く抑えられているため毎日多くの患者を診る必要がある。患者を満足させる余裕はない。病院の利益も重要なので、安い薬だけを出すことや無検査で済ませるわけにはいかない。このような「医患関係」(病院と患者、医師と患者の関係)は現代中国の大きな社会問題になり、お互いに不満が生じている。中国人にとって、病院に行くことや西洋薬を飲むことは、ファーストチョイスではないのだ。
さらに、現在50代以上のほとんどの人は、青春時代に政治運動に巻き込まれ大学に行っていないため、西洋医学を十分に理解するための教養が不足している。西洋医学の治療方法には器官の切除などがあるが、中国人には「恐い」と思われている。
というのも、伝承されてきた中医学は「身体を傷つけずに養う」「バランスを取り戻すように調整する」という考えなので、病気になってもできるだけ手術しないからだ。重篤な病気に罹った場合でも、「神秘」な中医に任せ、「奇跡」が起こるかもしれないと信じる(たい)のである。
ここで改めて、養生思想についておさらいしたい。「病気は罹ってから治すのではなく、病気に罹る前に治し、医者に頼らず、自分自身で自分の身体をコントロールして生き生きと快適に生きる」という中医学(中国の伝統的な医学)の考え方がある。それを「養生」、すなわち「生(生命)を養う」と呼ぶ。飲食や日常の生活習慣などさまざまなところで深く浸透している。
中医学の養生思想は、約2300年前の「易経」の陰陽論(世の中すべての物事が陰陽に分けられている思想)、約1300年前の前漢代の「黄帝内経」(現存する中国最古の医学書)などから伝わってきており、中国人に強い影響を与えている。その特徴は、①西洋医学の対処治療と異なり、全体のバランスを整えることで治療すること、②症状が同じでも治療内容は患者の体質によって異なること、③養生法により病気にならない身体づくりが重視されていることである。
携帯魔法瓶や炊飯器は中国人に人気のアイテムだ
たとえば、男性は精気あふれる「陽性」で女性は「陰性」なので、女性は陽気を補充する為に冷えはよくないし、「陽性」の食べ物(ナツメ・朝鮮人参)を多めに摂取すべきだと考えられている。その最たる例と言えるのが産後ケアだ。女性の出産後ケアを「坐月子(ゾイェーズ)」と言い、産後1カ月間の休養を非常に重視する。この間をゆっくり休み、飲食や生活に気をつければ、産婦の体質まで改善できると考えられている。具体的には、「できるだけベッドで安静にする」「風にあたると将来頭痛になりやすい体質になるので風にあたらないようにする」「栄養豊富で消化しやすいもの、哺乳によいものを食べる(魚・鶏・豚足スープ)」などである。
体を冷やしてはいけないという意識は、自分たちが気づかないほど強いものがある。携帯魔法瓶を持ち歩き、白湯を一年中飲む。特に現在PM2.5などで空気が悪い時は、百合・梅干し・数種類の生薬を魔法瓶に入れ、おいしい「清肺茶」(汚い空気を吸う肺が一番ダメージを受けるため、肺に良いと言われる生薬のブレンドティー)を作って飲む。これで、携帯魔法瓶の「バカ売れ」現象を理解してもらえるだろう。
また、「医食同源」に基づいた食事を取るのも一般常識となっている。胃腸に負担をかけないように、消化に良いおかゆを日常的に食べている。したがって、手間をかけずにおかゆを作れるフードジャーが魔法瓶の次に人気となる理由もそこにある。
化粧品のような顔や身体につけるものは「外」の化学成分で、体に「毒」を塗るようものと考えている。それより、きちんと養生し、薬膳・保温・マッサージ・鍼灸・抜罐(カッピング)・かっさ等を通してデトックスし、身体の「内」から綺麗になることこそ本当の美容だと思われている。
養生思想は、家族、周囲の人、マスコミ等を通して代々相伝し、中国人の知らないうちに生活や消費に影響を与えているようだ。女性はなぜか生理の日にナツメ・生姜・黒糖のスープを飲んで温まり、ホッとする。陽気(養生思想で生命力のこと)が旺盛な男性でも、なぜか冷たいビールを避ける。化粧品では「ハトムギ化粧水」が大人気だが、その理由には、中国人は「ハトムギ」という生薬に「消炎、排毒、むくみ解消」という効果があることを知っていたからに違いない。
現在、特に若い世代は西洋医学を信じる傾向が強まっており、中医学を「科学ではない古いこと」のように考える人が増えている。その一方で、教育レベルや情報収集の向上に伴い、養生思想についても新たな動きが出てきている。
一つ目は、先進国と比較しながら取捨選択するようになったことである。たとえば、以前は「子供を冷やすな」と過剰に厚着させる親が多かったが、最近では、「逆に体の耐寒力が落ちるのでは」と考え、意識的に薄着させる親も増えてきたようである。二つ目は、簡便性への嗜好である。「養生」関連のビジネスには、飲食・薬・日用品などが挙げられる。昔は数時間をかけて薬膳を作るのが一般的だったが、最近は手軽に食べられる、レトルトタイプの養生薬膳が出ている。このように、若い世代を中心に合理性の観点からの見直しが進んでいる。養生思想にかかわる領域で、新たなビジネスチャンスを見出すことは十分可能だろう。
目次に戻る
5.Economy・Politics・Military Affaires
目次に戻る
【ブランディング】
目次に戻る
【上海凱阿の呟き】
目次に戻る
コメントをお書きください